のれんって何? ビクターとケンウッドの経営統合
(ニュースの概略)
日本ビクターとケンウッドは2008年10月1日付けで共同持ち株会社を設立し、経営統合することを正式に発表した。この計画は2007年6月に松下と合意した内容に沿ったものである。
統合比率もあわせて公表され、ビクター株式1株に対して新会社株式2株、ケンウッド株式1株に対して新会社株式1株が割り当てられる。この発表を受けて、5月13日の株価はビクターが三十六円安の二百四十九円。それに対しケンウッドの終値は前日比七円安の百二十六円。移転比率に比べて割高だったビクターが大きく値下がりした。交換比率が発表されたので、株価がサヤ寄せすることは当然であるが、結果的に両社とも下がった。営業利益は3年後に4倍まで引き上げることを目指すが、統合効果を織り込むにはまだ早いという見方が大勢を占めたためである。
(統合の内容)
まず、統合の具体的な内容およびその効果について検証してみる。ステップ1として、2007年3月期の営業赤字から2008年3月期の営業黒字化への改革を断行した。具体的には2007年10月に早期退職1399人、事業譲渡、撤退も含めた構造改革が寄与し、通期での黒字化を達成した。また、2009年3月期も増益を見込んでいる。さらに、スパークスとケンウッドからの資金援助と経営支援を受けており、これも改革を後押ししているものと思われる。次のステップとして、共通事業での協業を計画している。2007年10月に共同開発を目的としたJ&Kテクノロジーズ(株)を設立した。ここでは、カーエレクトロニクス、ホーム/ポータブルオーディオ事業を柱として、共同開発に取り組んでいる。あわせて、両社で共同の調達活動や、OEM生産も実施、予定されている。
これらの、統合活動を経て、2008年10月に共同持ち株会社を設立することとなった。
経営統合(持ち株会社設立後)のシナジー効果として、売上シナジー300億円、コストシナジー100億円を見込んでいる。しかし、よく見るとその数字の根拠は明確ではなく、希望的観測にもとれる。例えば、共同で開発した新製品を2つのブランドで発売し、それが売上を押し上げる効果がどれほど見込めるだろうか。開発コスト削減というコストシナジーにとどまるのではないか。共同で開発することにより、革新的な製品を市場に送り出すことができれば売上シナジーも見込めるはずであるが、未知数である。2つの組織で摩擦が生じるなどのマイナス面もあるはずで、経営者が描いているほどばら色の計画ではないというのが、市場関係者の見方であり、経営統合発表後の株価であろう。
(会計面の影響)
プレスリリースによると、“本株式移転は企業会計基準における「取得」に該当し、パーチェス法を適用することになるため、共同持株会社の連結貸借対照表において「負ののれん」の計上が見込まれ、その償却にともなって営業外収益が増加する見込みです。これにより、当期純利益やROEなどが増加する見込み”である。
(今日の解説)
疑問1)負ののれんとは?
負ののれんとは、企業を買収した対価よりも、買収された企業の純資産のほうが多い場合に発生する差額のことである。例えば、純資産額100億円の企業を80億円で買収した場合には、20億円の負ののれんが発生する。(これに対し、純資産額100億円の企業を120億円で買収した場合には、20億円ののれんが発生する。通常は買収プレミアムを支払って買収するのであるから、正ののれんが発生する。)
疑問2)なぜ正ではなく負ののれんが発生するのか?
では、2社の純資産額と時価総額を見てみよう。
ケンウッド
時価総額 43,735百万円 (2008年5月20日)
純資産(自己資本) 29,925百万円 (2008年3月末)
日本ビクター
時価総額 84,328百万円 (2008年5月20日)
純資産(自己資本) 111,746百万円 (2008年3月末)
時価総額と純資産額の比率をPBRというが、ケンウッドの1.46倍に対し日本ビクターは0.75倍である。つまり、ケンウッドは日本ビクターを84,328百万円で買収し、それによって得られる純資産(資産-負債)は111,746百万円であるから、この差額(利益)が、負ののれんとなるのである。通常のPBRは1以上であることが多いが、ビクターの場合には赤字決算でもありPBRが1以下であった。こうした企業を取得すると買収金額よりも多くの純資産を得られる。この差額(つまり利益)は負ののれんとしてバランスシートに計上され、今後数年間にわたって(20年以下と定められている)、営業外収益に計上されるのである。

