続く海外企業の買収 リコーは販社を押さえて世界シェアトップを狙う
(ニュースの概要)
リコーは二十七日、米情報機器販売大手のアイコンオフィスソリューションズ(ペンシルベニア州)を買収すると発表した。買収額は十六億千七百万ドル(千七百二十一億円)。複写機など事務機器の国内市場が伸び悩むなか、メーカー各社は欧米の販売網拡充を急いでいる。リコーの複写機の世界シェアはキヤノンに次ぐ二位。同社にとって過去最大の買収資金を投じて販路を広げ首位獲得を目指す。日本企業が成長を求め海外企業を傘下に収める大型買収が加速している。
2008/08/28 日本経済新聞 朝刊 9面
(解説)
先日のキリンに引き続き、日系企業が海外企業(アメリカの上場企業)を買収するニュースである。1700億円といえば大金であるが、これくらいのニュースでは日経の一面にはもはやなりえないのであろうか。アメリカの上場企業を買収するということでアメリカ時間の8月27日の朝、プレスリリースが流された。その意味では日本時間の28日の朝刊では、既にニュースバリューとしては低いということも原因かもしれない。
日本の場合、プレスリリースの発表はその日の取引が終わった夕方に公表されることが多いような気がするが、アメリカの場合は、その日の取引が始まる直前の朝、発表することが多いのだろうか。気になるところではある。
日系企業による海外企業の買収は確実に一般的になりつつある。企業が買収に慣れてきたということもあるだろうし、成熟市場においては新規に事業を立ち上げることが事実上難しいという事情もあるだろう。この買収は、メーカーが販売会社を買収するという点で非常に興味深い。川上(原材料)から川下(消費者)までの全てのビジネスフローを眺め、その中でどこを押さえれば競合に勝てるのかを考えるとこの買収の事情が見えてくる。
たとえば、製鉄会社が鉄鋼商社を買収するという話は聞かない。むしろ、資源供給元である鉄鉱石企業の買収に乗り出している。リコーは反対に川下の販売会社を押さえることによって、マーケットシェアをあげる戦略である。
(疑問1)
原料供給会社と買収するケースと販売会社を買収するケースの違いは何?
(ニュースはこう読め)
利益の源泉がどこにあるのかを冷静に見極める必要がある。製鉄業の場合には世界的な資源高が影響しており、また、その規模の違いから、力関係が逆転し、製鉄会社に価格交渉力がなくなってしまった。つまり、仕入先からこの価格で買わなければ他社に売るといわれた場合、代替仕入先が確保できなければ、その価格で買わざるを得ないという状況が生まれている。(そういう意味では、原材料の値上げに苦しむ食品会社でも状況は同じである。しかし農産物の場合には鉱工業製品と違って農家を買収するということにはならないと思うが。)
逆にリコーのケースでは、販売を押さえたものが勝つという構造になっている。つまり直接消費者に販売できなければ、代理店を通じて販売することになり、代理店を押さえる、販売力を得た会社がシェアを取るという構図になる。消費者が指名買いをするのでなければ、代理店にそろえてある商品、代理店が勧める商品を買う傾向にあり、ここがシェアを拡大するためのポイントとなる。
この場合、商品に代替性があり、スイッチングコストがかからないことが前提となる。つまり、ある会社が複写機をキャノンからリコーに変えたときに、何らかの不都合が生じると、商品の入れ替えは進まない。不都合とは、たとえばメンテナンスコストが大幅に上昇するとか、修理を依頼したときにキャノンのほうが早く対応するとか、機械の使い方が全く違うために、入れ替えることにより新たに使い方をマスターしなければならないとか、そういうことが起こるのかどうかである。起こるのであれば、すぐに入れ替えはできないだろう。新聞報道によると、アイコン社は取り扱い製品の6割がキャノン、3割がリコーである。そして専務のコメントによれば、入れ替えには相当な労力がいるそうであり、何らかのスイッチングコストがかかると考えてよいだろう。
うまく短期間で入れ替えが進めば、リコーのシェアがのぞめる。報道直後のリコーとキャノンの株価を見ると、市場ではリコーの戦略が期待できると評価している。(リコーの株価は3%上がり、キャノンは5%下がった)
また、代理店販売の代わりに直販を増やすという選択肢もあるが、直販を増やすためのコスト増を吸収できないと判断されれば、代理店の買収が最適解となる。
(疑問2)
アメリカの販売会社(アイコン)にとってのメリットは何?
(ニュースはこう読め)
さて、アイコン社の経営者の立場からこの買収を見てみよう。(なお、M&Aは敵対的でない限り双方の合意で進められる。新聞報道では敵対的買収が大きく報じられるが、ほとんどのM&Aは友好的な交渉で進むのである。)
アイコン社はアメリカで上場している情報機器販売の大手企業である。
日経新聞にはアイコン社のコメントは出ていない。こういう場合はアイコン社のプレスリリースや海外の報道記事を見るとよい。それによると、アイコン社の近年の業績はアメリカの不景気も影響して芳しくないことがわかる。リストラもして何とか立ち直ってきている状況だ。経営陣としてはこのまま自力での成長には限界があると判断したはずである。マーケット全体が落ち込んでいるのであれば、水平統合によって規模を拡大して生き残りを図ることも難しい。このような環境化においては、キリンのように多角化を計ることも選択肢のひとつではある。今回のケースではリコーと一緒になることによって、経営を維持するという選択肢を選んだ。
M&Aを見る際には買手、売り手両方の思惑が一致することが不可欠であり、その思惑を考えながら記事を読むと、背後で何が起こっているのが見えてくる。


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