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2008年8月12日 (火)

マネジメントバイアウト(MBO)って何? 経営者による買収?

(ニュースの概要)
 外食大手すかいらーくの主要株主である野村グループなどの投資会社二社が、創業一族の横川竟社長に退任を要求したことが二十九日明らかになった。国内最大規模のMBO(経営陣が参加する買収)で再上場を目指しているが、ガソリン高に伴う外食不振で業績が改善せず、両社が不満を強めた。
 すかいらーくは二〇〇六年、野村プリンシパル・ファイナンスと英投資ファンドCVCキャピタルパートナーズに横川氏ら経営陣が加わり、MBOで非上場化した。MBO額は二千七百億円と国内最大級。経営改革を迅速に進めるため上場を一時的にとりやめた。
 投資した野村プリンシパルの持ち株比率は昨年末時点で六一・五%。CVCは三五・六%。二社で九七%の議決権を持つ。二社は改革を通じ収益力を高め、〇九年中にも再上場を果たすシナリオを描いていた。
2008/07/30, 日本経済新聞 朝刊, 1面

その後の報道で結局、すかいらーくは十二日の臨時株主総会とその後の取締役会で、主要株主の投資会社二社から退任を求められていた横川竟(きわむ)社長(70)を解任し、生え抜きの谷真常務執行役員(56)を後任社長に選ぶことが明らかになった。株主と経営者の異例の対立は、資本の論理を盾にした投資会社側に軍配が上がり、創業一族が表舞台から去る。日本最大のMBO(経営陣が参加する買収)はどこでつまずいたのか。
2008/08/09, 日本経済新聞 朝刊, 11面

(解説)
MBOとは、あまり耳慣れない言葉ではないか?一般的には、マネジメント・バイアウト(MBO、Management Buyout、経営陣買収)とは、会社の経営陣が株主より自社の株式を譲り受けたり、あるいは会社の事業部門のトップが当該事業部門の事業譲渡を受けたりすることで、文字通りのオーナー経営者として独立する行為のこと、といわれている。(Wikipediaより)
この説明に間違いはないが、これだけ読むと誤解を生じやすい、あるいはわかりにくい。そもそも、なぜいったん上場しながらMBOで非上場化するのか、そこからして、ぴんと来ない人が多いだろう。普通は上場を目指すものである。さらにオーナー経営者として独立したのに解任されるというのも不可解だ。

MBOを実施した2006年当時から外食産業の市場が縮小する一方で、競争が激化しており、すかいらーくの業績も悪化していた。そこで、店舗の統廃合、新しい業態の創造など抜本的な事業再構築をする必要があるが、短期的に利益を圧迫するなど5万人を超える株主の要望に応えることができないおそれがあるためにMBOを実施するというのである。この説明でも、いまいちよくわからない。要するに言い換えると、今後リストラをして利益が減ってしまい、株価も下がり、経営者の責任問題になりかねないので、一度非上場化して出直します、と、そういうことである。この会社の利益は今後も下がりますよ、株価も下がりますよ、それでは皆さんも納得しないでしょうから一度非上場化しますよ、と直接言うわけにはいかないので、なんとなく、あいまいな表現をとっているのだろう。

非上場化するためには、一度株式市場で流通している株式を買い取る必要がある。みなさんが持っている上場株が突然非上場となれば、証券会社を通じて売ることができなくなり、大きな損害を受ける。倒産による上場廃止であれば、それは突然起こることであるが、すかいらーくのように倒産するわけでもない(2005年12月期で66億円の利益)会社が、明日から上場廃止では困る。暴動がおきかねない。そこで、経営者たちが株式市場の株を買い取るというのがMBOの仕組みである。実際には、2割程度のプレミアムをつけて買い取る。それだったら、普通の株主は喜んで売却する。私が株主であっても文句なく売却する。自分が投資している会社の経営者が2割のプレミアムでその株を売ってくださいというのである。反対する理由はないだろう。こうして、経営者は今後は経営者としてだけでなく株主の立場で会社を経営していくのである。

さて、ここで一度振り返って考えてみて欲しい。なぜ経営者はMBO(非上場化)の選択肢を選んだのか。それは、今後大きなリストラが予想されるからであるという説明だった。つまり利益が減るということは経営者自身が一番良く知っているはずである。利益が減る会社の株をあなたは買うだろうか。普通の投資家であれば、利益が増えると予想する会社の株を買うはずである。では、MBOを実施する経営者はどのような動機で会社の買収に踏み切るのか。ここまでの説明では、全く理解できない。少なくとも経済合理性は感じられない。経済合理性が見えない取引をわざわざ実施するという背景には必ず裏の理由がある。それを考えてみよう。

ここでMBOの買収者が誰かということを見てみたい。MBOの日本語訳は経営陣による買収となっているが、現実問題として経営陣(社長や取締役)だけで、すかいらーくのような上場会社(MBO前)の株式を買い占められるほど財力はない。とくにすかいらーくのMBOは日本最大といわれていて、買収規模は2700億円を超える。仮に創業者一族がいくら金持ちだとしても、まさかそれだけのCashを保有しているということは考えにくい。では、だれが資金を出しているのか。

そこから、今回のニュースの本質が見えてくる。

(疑問1)
すかいらーくの真の買収者は誰か?

(ニュースはこう読め)
解説の最初にMBOを直訳して経営者による会社買収と理解すると、その本質は理解できないと書いた。
MBOの本質は、経営者も含む投資家グループによる買収とでも言えばよいだろうか。もっと直接言えば、投資ファンドが経営者と組んで買収すること、である。そして真の買収者は資金を最も出している人、ということになる。
このMBOに関して言えば、野村プリンシパル・ファイナンスとCVCキャピタルパートナーズ(英)が約1600億円を出資して特別目的会社(SNCインベストメント)を設立し、みずほ銀行が1,200億円融資してすかいらーく株式を公開買付した。
経営者も一部資金を拠出しているはずであるが、これは、投資ファンドによる買収である。真の買収者は野村プリンシパル・ファイナンスとCVCキャピタルパートナーズの二つの投資ファンドである。しかし、経営者も参加しているので敵対的買収ではない、きわめて友好的な買収劇といえる。友好的ではあるが、今のすかいらーくのオーナー(すなわちそれが買収者となる)は、野村プリンシパル・ファイナンスとCVCキャピタルパートナーズの2社であるということを忘れてはいけない。
これがMBOの本質である。

(疑問2)
MBOの真の目的は何か?

(ニュースはこう読め)
投資ファンドの目的はひとつしかない。非常にシンプルである。投資によってリターンをあげること。その一点に目的は集約される。そこを読み違えてはいけない。もちろんリターンをあげるためにさまざまな努力をするが、投資ファンドによってその手法は違っても、目的はひとつである。MBOというのは友好的な買収であると書いた。ファンドによっては敵対的な買収によってリターンを目指すものもあるが、少なくともこの2社は友好的な買収者である。
友好的であるということは、現在の経営者と対立しないことを意味する。そうでなければ、MBOではなく、敵対的なTOBになってしまう。敵対的TOBと友好的MBOの違いは経営者が賛成しているかしていないか、経営者も(一部)出資するか否か、それだけである。ファンドとしては手法が違っても目的はひとつというのは、そういうことだ。
新聞記事を表面的に読んでいるだけでは、その点がなかなか理解しにくい。
さて、では投資ファンドはどうやってリターンをあげることができるのか。これも非常にシンプルである。株式を安く買って高く売る。MBOではプレミアムをつけなければ買収できないのである意味では安いとは言いがたい面もある。しかしながら、それを補うだけの高値で売れればリターンが得られるという仕組みである。
どうやって高値で売るかというと、これも2つしか方法はない。ひとつは誰かにまとめて転売すること、もうひとつは株式の再上場である。そのためにはリストラによって一時的に損失が出ても、長期的に利益が出る体質に変えていかなければならない。そのようにして利益を増やし、高い株価で転売をするのである。
すかいらーくの規模であれば、これをまとめて買うという買手も少ないと思われ、基本は再上場を年頭においていたと思われる。MBO時点でも経営陣は再上場について否定しなかった。
さて、利益至上主義の投資ファンドにとって、再上場時期が遅れる、あるいは再上場できないという事態に陥れば大損害である。仮に、リターンが得られたとしても小さくなる。新聞報道によると、MBO後の直近2年間は赤字である。これはある程度予想されたことだと思われるが(MBO時でそういっているのだから)、それにしても赤字額が拡大したことは想定外であったようだ。また、赤字も一時的なものではなく、今後の事業環境はさらに厳しいものと予想されている。このような背景の下、現在の社長で経営を続けることは難しいと投資ファンドは判断し、新社長就任となった。
MBOという名前に惑わされてはいけない。

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