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2008年8月28日 (木)

なぜ、キリンはM&Aに積極的になったのか。

(ニュースの概要)
 キリンホールディングスは二十五日、オーストラリア乳業二位のデアリーファーマーズを買収すると発表した。金額は引き継ぐ有利子負債分を含め八億八千四百万豪ドル(約八百四十億円)。近年の海外M&A(合併・買収)では二千九百四十億円をかけた同国乳業最大手ナショナルフーズに次ぐ規模となる。国内ビール事業は伸び悩みが鮮明となっており、M&Aによる海外事業拡大で成長を目指す。
2008/8/26, 日本経済新聞 朝刊, 11面

(解説)
キリンホールディングスが積極的に買収を進めている。しかも、ビール会社ではなくて、製薬会社や乳業会社を買っている。キリンのメインビジネスはいわずと知れたビール。発泡酒、第三のビールなど新ジャンルも増えているが、ビールのシェアにおいて、アサヒビールと激しい首位争いをしている。そのキリンが、なぜビールと全く違う分野の企業を買うのか、また国内の乳業メーカーではなく海外メーカーを買う狙いは何かといえば、国内ビール事業は伸び悩みを補うための成長事業を手に入れるためである。
もはや、キリンはアサヒとのシェア争いに全精力を注ぐ時代ではないと悟っている。マーケットの定義を”国内”、”ビール”から広げて、その新しく定義されたマーケットでどのような付加価値を出せるのかにシフトしている。これは、社長のインタビューにもあるように純粋持株会社に移行したことが大きい。

(疑問1)
純粋持株会社に移行することにより、なぜ、大胆な投資が可能になるのか?

(ニュースはこう読め)
加藤社長はインタビューで「(昨年に)純粋持ち株会社に移行しことでグループ経営の視点で(重点分野に)大胆な投資が可能になった。(昨年の協和発酵買収を含めたM&Aは)事業会社の形態では難しい『飛躍的な成長』を実現するためだ」と語っている。
加藤社長はキリンホールディングスの社長であって、キリンビールの社長ではない。この違いは大きい。キリンビールの社長である限り、乳業や製薬業はどうしても二の次になる。ビールのシェアを上げることが社長としての第一優先事項になりかねない。
ところが、キリンホールディングスの社長という立場で経営をすることになると、必ずしもビールが最優先ではなくなる。そして、例えば100億円をビール事業に投資するのと、新規事業(たとえば乳業)に投資するのとどちらが将来のリターンが増えるのかを冷静にかつ同列に見ることが求められる。
たとえば商品のライフサイクルと同様に事業にもライフサイクルがあると考えられる。ビール事業に関して言えば、国内も伸びが期待できず、海外はとっくにM&Aが進んでしまっていて、いまさらキリンが進出する余地は少ない。
そう考えれば、おのずと違う事業に投資をしてそれを育てる方が、ビール事業に固執するよりも成長の余地が大きいことがわかる。

(疑問2)
ナショナルフーズを買収したにも関わらず、なぜ同じ国の同じ事業の会社を買収するのか?

(ニュースはこう読め)
今回の買収はキリンホールディングスの子会社になったナショナルフーズがデアリーファーマーズの株式を買い取る方式だ。ナショナルフーズはデアリーファーマーズを買収し規模の拡大による生産効率性の向上が期待できる。
多少、独禁法に絡んで一部の事業を売却する必要性がありそうだが、それでも売却後に残った事業で十分採算性が取れるのであろう。
それよりも、もっと重要なことは、世界的な乳製品の品薄だ。今春のバター不足は皆さんご存知の通りである。これは国内の生乳生産量が減少し、バターの原料が減ったことに起因する。元をたどれば、飼料コストが上昇し、それを価格転嫁できない酪農家が次々と廃業していることが原因となっている。
しかしながら、アジアを中心に乳製品需要の上昇が見込まれている。生乳生産の価格競争力が高い国はオーストラリアだ。日経MJの記事によれば、生乳100kgを清算するのにかかるコストは、アメリカ5257円、日本7707円に対し、オーストラリアは2380円である。アメリカの半分以下、日本の3分の1以下のコストで生産できるということは、アジア向けの輸出を考えたときの競争力の差は大きい。
ビールの需要の頭打ち、乳製品の需要増加の見込みを見抜き、最も競争力のあるオーストラリアの乳製品企業を押さえたキリンの戦略は注目に値する。
キリンの次の一手としては、需要拡大が見込めるアジアでの販売網確保だろう。

話はそれるが、ちなみに、日本ではチルド輸送を前提とした牛乳を販売しているが、海外では加熱処理をして常温で1ヶ月保存できる製品が主流である。オーストラリアからはこのような形で牛乳をアジア向けに輸出するようだ。
日本でも牛乳の品薄が続くようであれば、このような常温保存可能牛乳の輸入が必要になるだろう。おそらく待ったなしの状況だ。生産コストが3分の1であれば、輸送費を考えても十分可能である。そして、安価な海外の牛乳と高価な国内産チルド牛乳の二分化を進める必要があるのではないか。酪農家も牛乳の価格が上がれば安心して生産に打ち込める。消費者もチルド牛乳にこだわる人は今後も安定供給を受けられる。価格にこだわる人は安価な牛乳が手に入る。
農林水産大臣に言わせると日本の消費者はやかましいらしいが、もしそうであれば、関税を引き下げ選択肢を複数用意して(安い牛乳と高い牛乳)、それを選ばせるというのが政治家の務めだろう。酪農家を保護するために関税をかけているのに離農が相次ぐ状況は皮肉である。

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