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2008年7月31日 (木)

多角化の推進か、本業回帰か? なぜソニーは音楽ソフト事業に多額の投資をするのか?

(ニュースの概要)
 ソニーと独メディア大手ベルテルスマンは折半出資している世界二位の音楽ソフト会社、米ソニー・BMGミュージックエンタテインメントをソニーの完全子会社にする方向で交渉に入った。ベルテルスマンは保有する五〇%の株式のすべてを売却する方針をソニー側に打診しており、八月にも基本合意を目指す。株式の買収額は一千億円超とみられる。ソニーは完全子会社化で経営効率を高め、世界の音楽ソフト市場で首位の米ユニバーサル・ミュージック・グループを追う。
(2008/07/29, 日本経済新聞 夕刊, 1ページ)

(解説)
本記事は、まだ何も確定していない段階での報道である。つまり8月中の基本合意を目指し交渉に入ることが決まっただけで、何も正式に決定していない。しかしながら、関連報道を読む限り、ベルテルスマンは株式の売却を決めており、ソニーは買い取る方針を決めているようだ。単純な株式の売買なので、新会社への投資でもなく、既存の投資先の株式を買い増すだけであれば、一番の交渉は価格であり、交渉にそれほど時間がかからないだろう。

(疑問1)
ベルテルスマンが株式の売却を決めた背景は?

(ニュースはこう読め)
M&Aの交渉の現場に立ち会っていると、経営者は既存の事業を手放すことに対して抵抗感をもつものだと感じることが多々ある。もちろんそれが本業であれば当然である。自分が心血を注いで大きくしようとしているビジネスを他人に売ろうとは、なかなか考えないであろう。それどころか、赤字でなければ(あるいは赤字であっても)、本業とは違うビジネスでさえ手放そうとはしない。それはおそらく、自分の王国、領土を拡大することに快感を持ち、縮小することは良しとしない経営者の心理(本能)が働くものと想像する。
効率が全てとは言わないが、効率を重視するのであれば、経営者が本腰をいれて取り組むつもりがない(つまり、金も時間も使うつもりがない)本業以外のビジネスが低成長であれば、それを手放し、そのあまった資金で本業に金と時間を集中したほうが、本業も成長が期待できるし、また手放したビジネスも新しい株主の下で今まで以上の成長が期待できる。
そうした視点でベルテルスマンの判断をみてみると、出版、放送など主力事業に経営資源を集中させるために音楽ソフト事業を売却する方針を固めたわけであり、きわめて合理的な判断だと感じる。
例えば、出版などの主力事業の成長率が5%、音楽ソフト事業の成長率が2%であれば、音楽ソフト事業を売却した資金を主力事業に投資することによって、3%の追加成長を得られる。
日本企業の場合には、音楽ソフト事業が赤字でなければなんとなく継続保有するという判断を下す場合が多いのではなかろうか?
今後は株主も経営者に対し効率性を求めてくるだろう。そうなったときには、今回のケースのように低成長の非主力事業を手放し、事業の選択と集中が進むことが期待できる。このような隠れた非効率性は目にみえにくい。それが日本の成長性を抑えている一因のような気がする。ベルテルスマンのような経営判断が増えれば、日本の経済成長性ももっと上がるとおもうが、皆さんはどう感じるだろうか?

(疑問2)ソニーはなぜ音楽ソフト事業に多額の追加投資をするのか?

(ニュースはこう読め)
さて、反対にソニーの立場からこの取引を見てみよう。音楽事業はソニーの主力事業か?答えはノーである。ソニーの有価証券報告書を見ても音楽事業はその他に分類されている。ゲーム、金融などの事業も大きいが主力事業はエレクトロニクスである。ではなぜ音楽ソフト事業に投資をするのか?
ソフトとハードの融合という言葉は使い古された感があるが、今の時代において音楽ソフトと音楽再生プレーヤーの両方のビジネスを押さえることにどれだけの効果があるのかは疑問がぬぐえない。これからはアップルのi-podのビジネスモデルが主流であり、CD販売の成長性は期待できない(それもベルテルスマンが売却を決めた理由だ)。
ブルーレイが次世代DVD企画争いで買った理由はアメリカの映画会社を押さえたからであり、ソフト産業を持つ理由は多少あるだろう。それにしても1000億円を追加する意味があるかどうかは、疑問が残る。
むしろ、この投資の意味は合弁会社特有の非効率性の解消である。これには大きな意味がある。本件に限らず50%ずつを保有する合弁会社は、その経営がうまくいかないことも多い。会社が一枚岩にならず、足の引っ張り合いが発生するために意思決定や行動が遅くなるのである。100%子会社であればその様な問題は解消されるはずである。
もうひとつの理由としては、ストリンガー会長がソフト企業出身者ということもあり、それも影響している可能性はある。つまり会長のこだわりが強く反映されているということである。先ほどの例で考えると、音楽ソフト事業の成長率が2%であり、ソニーのエレクトロニクス事業の成長率が5%であれば、(それが本業であればともかく)あえて音楽ソフト事業に1000億円の資金を投入する必要はない。経済合理性にかなった判断であるためには、合弁企業のため内部での足の引っ張り合いが会社の成長率(または利益率)をおしさげていて、100%子会社化することにより効率性と利益率が上昇するということでなければならない。

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