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2008年7月

2008年7月31日 (木)

多角化の推進か、本業回帰か? なぜソニーは音楽ソフト事業に多額の投資をするのか?

(ニュースの概要)
 ソニーと独メディア大手ベルテルスマンは折半出資している世界二位の音楽ソフト会社、米ソニー・BMGミュージックエンタテインメントをソニーの完全子会社にする方向で交渉に入った。ベルテルスマンは保有する五〇%の株式のすべてを売却する方針をソニー側に打診しており、八月にも基本合意を目指す。株式の買収額は一千億円超とみられる。ソニーは完全子会社化で経営効率を高め、世界の音楽ソフト市場で首位の米ユニバーサル・ミュージック・グループを追う。
(2008/07/29, 日本経済新聞 夕刊, 1ページ)

(解説)
本記事は、まだ何も確定していない段階での報道である。つまり8月中の基本合意を目指し交渉に入ることが決まっただけで、何も正式に決定していない。しかしながら、関連報道を読む限り、ベルテルスマンは株式の売却を決めており、ソニーは買い取る方針を決めているようだ。単純な株式の売買なので、新会社への投資でもなく、既存の投資先の株式を買い増すだけであれば、一番の交渉は価格であり、交渉にそれほど時間がかからないだろう。

(疑問1)
ベルテルスマンが株式の売却を決めた背景は?

(ニュースはこう読め)
M&Aの交渉の現場に立ち会っていると、経営者は既存の事業を手放すことに対して抵抗感をもつものだと感じることが多々ある。もちろんそれが本業であれば当然である。自分が心血を注いで大きくしようとしているビジネスを他人に売ろうとは、なかなか考えないであろう。それどころか、赤字でなければ(あるいは赤字であっても)、本業とは違うビジネスでさえ手放そうとはしない。それはおそらく、自分の王国、領土を拡大することに快感を持ち、縮小することは良しとしない経営者の心理(本能)が働くものと想像する。
効率が全てとは言わないが、効率を重視するのであれば、経営者が本腰をいれて取り組むつもりがない(つまり、金も時間も使うつもりがない)本業以外のビジネスが低成長であれば、それを手放し、そのあまった資金で本業に金と時間を集中したほうが、本業も成長が期待できるし、また手放したビジネスも新しい株主の下で今まで以上の成長が期待できる。
そうした視点でベルテルスマンの判断をみてみると、出版、放送など主力事業に経営資源を集中させるために音楽ソフト事業を売却する方針を固めたわけであり、きわめて合理的な判断だと感じる。
例えば、出版などの主力事業の成長率が5%、音楽ソフト事業の成長率が2%であれば、音楽ソフト事業を売却した資金を主力事業に投資することによって、3%の追加成長を得られる。
日本企業の場合には、音楽ソフト事業が赤字でなければなんとなく継続保有するという判断を下す場合が多いのではなかろうか?
今後は株主も経営者に対し効率性を求めてくるだろう。そうなったときには、今回のケースのように低成長の非主力事業を手放し、事業の選択と集中が進むことが期待できる。このような隠れた非効率性は目にみえにくい。それが日本の成長性を抑えている一因のような気がする。ベルテルスマンのような経営判断が増えれば、日本の経済成長性ももっと上がるとおもうが、皆さんはどう感じるだろうか?

(疑問2)ソニーはなぜ音楽ソフト事業に多額の追加投資をするのか?

(ニュースはこう読め)
さて、反対にソニーの立場からこの取引を見てみよう。音楽事業はソニーの主力事業か?答えはノーである。ソニーの有価証券報告書を見ても音楽事業はその他に分類されている。ゲーム、金融などの事業も大きいが主力事業はエレクトロニクスである。ではなぜ音楽ソフト事業に投資をするのか?
ソフトとハードの融合という言葉は使い古された感があるが、今の時代において音楽ソフトと音楽再生プレーヤーの両方のビジネスを押さえることにどれだけの効果があるのかは疑問がぬぐえない。これからはアップルのi-podのビジネスモデルが主流であり、CD販売の成長性は期待できない(それもベルテルスマンが売却を決めた理由だ)。
ブルーレイが次世代DVD企画争いで買った理由はアメリカの映画会社を押さえたからであり、ソフト産業を持つ理由は多少あるだろう。それにしても1000億円を追加する意味があるかどうかは、疑問が残る。
むしろ、この投資の意味は合弁会社特有の非効率性の解消である。これには大きな意味がある。本件に限らず50%ずつを保有する合弁会社は、その経営がうまくいかないことも多い。会社が一枚岩にならず、足の引っ張り合いが発生するために意思決定や行動が遅くなるのである。100%子会社であればその様な問題は解消されるはずである。
もうひとつの理由としては、ストリンガー会長がソフト企業出身者ということもあり、それも影響している可能性はある。つまり会長のこだわりが強く反映されているということである。先ほどの例で考えると、音楽ソフト事業の成長率が2%であり、ソニーのエレクトロニクス事業の成長率が5%であれば、(それが本業であればともかく)あえて音楽ソフト事業に1000億円の資金を投入する必要はない。経済合理性にかなった判断であるためには、合弁企業のため内部での足の引っ張り合いが会社の成長率(または利益率)をおしさげていて、100%子会社化することにより効率性と利益率が上昇するということでなければならない。

2008年7月30日 (水)

異業種への参入 なぜ全く違う分野の会社を買収するのか?

(ニュースの概要)
TBSは旧ソニー系の雑貨販売店「PLAZA(プラザ)」などを傘下に持つスタイリングライフ・ホールディングス(東京・渋谷)を買収する。日興プリンシパル・インベストメンツから発行済み株式の五一%を約二百十億円で取得する。景気低迷やネット広告との競合でCM収入が落ち込んでおり、放送外収入を伸ばし収益力を回復させる。
(2008/07/29, 日本経済新聞 朝刊, 1ページ)

(解説)
業界にはそれぞれ特有の性質があり、異なる業界の会社を経営することは容易ではない。最近では本業回帰、選択と集中による主要事業以外の売却も目立つ。例えば、今回買収の対象となったPLAZAはもともとソニーの子会社としてソニープラザの名前で長年親しまれてきた。ソニーの業績の不振もあり、本業と関連性の低い事業としてソニーは株式を売却した。
そのような昨今の傾向があるなかで、全く異業種の会社を買収するという本件のような事例は目を引く。

(疑問1)
TBSが小売業を買収した理由は?

(ニュースはこう読め)
本業の落ち込みにより、非主要部門を売却する代わりに、非主要部門を買収するというのが本件の特徴である。TBSの主要ビジネスであるCM収入が落ち込んでいる背景は、消費(景気)の低迷と、ネットとの競合という新たなコンペティターの登場による業界構造の変化である。景気には波がありいずれ回復する可能性もあるが、構造変化は元に戻ることはなく、放送業界におけるCM収入の長期的な伸びを期待することは難しいだろう。
構造的に成長が見込めない業界の経営者が取る選択肢としては、新規ビジネスの立ち上げ(新製品の開発)、新市場(海外など)の開拓などが常道であるが、規制業界である放送業においては、なかなか難しい。
異業種を買収する場合のポイントは、多少でも本業との関連性が期待できることである。現在のTBSの放送外収入は、DVD販売やイベント収入であり、これらは本業との関連性がつよく、経営陣としてもビジネスを理解しやすい。テレビ通販は本業のコンテンツの一種であり理解しやすいが、小売業であるPLAZAの買収によってテレビ通販とのシナジーをあげていくのかは、今後注目していくべき点であろう。

(疑問2)株式の売り手である日興プリンシパル・インベストメンツは、なぜTBSに株式を売却したのか?

(ニュースはこう読め)
今回の売却元は投資ファンドである。投資ファンドは、未公開株式を過半数以上買い、経営改革などを通じて収益性を上げ、株式価値が上昇したところで数年後をメドに売却する、というビジネスモデルで成り立っている。
株式の売却をExit(出口)と呼ぶが、Exitには大きく2種類あり、株式上場による売却か、相対取引で別のファンドまたは事業会社に売却する、のどちらかとなる。
記事によると、株式上場も検討していたようだ。しかしながら昨今の株式市場の低迷を見ると必ずしも株式上場がベストな方法とは限らない。それよりも、株式の51%(支配権)という部分に価値を見出す事業会社に売るほうが高く売れるケースもあり、本件は入札(複数の買手候補に、買取条件、価格提示をさせ、最も条件が良いところに売却する)によって、TBSが選ばれたようだ。他の買手候補がどこかは記事に出ていないが、継続的な株式保有が見込まれることを売却先の条件として重視していたということから、他のファンドへの売却よりも、事業会社への売却を優先したということが読み取れる。

仕入先を買収 効果的な垂直統合とは?

(ニュースの概要)
マツモトキヨシホールディングス(HD)は二十八日、一般用医薬品(大衆薬)の中堅卸会社である茂木薬品商会(東京・文京)を買収すると発表した。十月一日付で株式交換により完全子会社化する。直営を主力としてきたマツキヨHDは各地の小売業に商品を提供するフランチャイズチェーン(FC)展開に力を入れ始めており、買収で商品調達力を高める。

(2008/07/29, 日本経済新聞 朝刊, 12ページ)

(解説)
ドラッグストアの離合集散は激しく、マツモトキヨシHDも提携企業(サッポロドラッグストアーなど)を増やす一方で、提携関係の解消もある。業界全体を見渡してもセガミメディクスとセイジョーが経営統合し、2008年4月にココカラファインHDが誕生した。同業他社との水平統合が目立つ中、マツモトキヨシHDは赤字である卸会社との垂直統合をしたということは注目に値する。
プレスリリースを読むと、茂木薬品商会は、本株式交換後、第三者割当増資を行い当社の完全子会社ではなくなる予定です、とあり、100%子会社とした後にマツモトキヨシHD以外の第三者が増資をするという背景も気になる。

(疑問1)
マツモトキヨシHDが卸会社を買収した理由は?

(ニュースはこう読め)
仕入先または販売先との統合を垂直統合という。最近のニュースでは資源価格の高騰を受けて大手鉄鋼会社が、鉄鉱石会社の買収を検討しているなどがこれにあたる。原材料の仕入先から最終消費者までの取引の流れを見極め、どこに競争の源泉があるのかを見極めることは、M&Aにおいて重要な事項である。仕入先との統合を目指すのであれば、その仕入先を自社グループに取り込むことが同業他社との競争において、どのように有利に働くのかの検討が必要となる。
茂木薬品商会の主要取引先を見ると武田薬品、第一三共、ライオンなど、大手メーカーの名前が列挙されている。マツモトキヨシHDの取引先にはその名前はない。例えば大手メーカーがたとえ大手のマツモトキヨシであっても直接取引をすることなく、全て卸会社を通じて取引をするのであれば、卸会社を自社グループに取り込むことによって、実質的に大手メーカーとの直接取引が可能となり、それが取引条件を有利にすることに繋がるのであれば、垂直統合のシナジーが期待できる。
もしも、シナジーが期待あまりできないのであれば、赤字である茂木薬品商会の救済の意味合いが強い。もしも茂木薬品紹介から商品仕入ができなくなった場合に、マツモトキヨシHDの経営上にマイナスの影響を与える可能性があれば、救済する意義があるだろう。

(疑問2)茂木薬品商会がマツモトキヨシHDグループに参加するメリットは?株主はなぜ株式の売却を決断したのか?

(ニュースはこう読め)
赤字会社であれば、自社単独での再建ができない限り、なんらかの救済措置が必要になる。救済措置をどこからか受ける条件として、株式の売却に至った可能性は大きい。合理的な理由がない限り、筆頭株主である社長が株式の売却に応じることは考えにくい。
プレスリリースでは、株式会社大木と茂木薬品商会との間で資本業務提携契約が締結されており、マツモトキヨシHD向け以外の事業の維持が困難であり、縮小・整理すると明記されている。

2008年7月22日 (火)

国際的なM&A  国境を越えたM&A その目的は?

(ニュースの概要)
「バドワイザー」で知られる米ビール大手アンハイザー・ブッシュは十四日、ベルギー大手インベブが金額を引き上げて再提案していた買収提案を受け入れたと発表した。インベブは総額約五百二十億ドル(五兆五千億円)でアンハイザー全株を買い取り、二〇〇八年末までに統合を完了する。世界シェア約二五%を握る巨大メーカーが誕生する。新会社は需要の伸びが期待されるBRICsなど新興国の開拓を急ぐ。
世界的なM&A(合併・買収)で規模拡大を続ける海外ビール大手とは対照的に、国内大手の海外展開での出遅れが目立つ。国内でのシェア争いに懸命でM&Aによる事業展開という手法にも不慣れだったためだ。海外大手との規模の格差は今後、中国をはじめとする新興市場開拓で不利に働く可能性がある。
(2008/07/15, 日本経済新聞 朝刊, 11ページ)

(解説)
敵対的買収もちらつかせながら買収交渉が難航することも予測されたインベブによるアンハイザー・ブッシュの買収は予想に反してあっさりと決着した。ビール業界はローカル色が強く、海外ブランドを現地に浸透させることには時間がかかるが、両社は複数のブランドを各国で販売することにより世界シェアが25%に達するという。
この買収案件は3つの点で興味深い。第一点は地域性の強いビール会社の再編が世界規模で進んでいること。第二点は当初買収に抵抗していたアンハイザー・ブッシュの経営陣が短期間で買収に合意したこと。第三点は日本企業(ビールメーカー)への影響だ。

(疑問1)
ビール会社で世界的な再編が進む背景は何?

(ニュースはこう読め)
ビール会社の世界第2位が世界第4位を買収するというニュースである。話は世界第一位を目指すという単純なものではない。
まずはじめに、インベブがどういう会社かを見てみよう。この会社はベルギーのインターブリューとブラジルのアンベブが2004年に経営統合して生まれた会社である。インベブのCEOであるブリト氏は買収されたブラジル側のアンベブのトップから2005年にインベブCEOに昇格した。米スタンフォード大で経営修士号(MBA)を取得しており、M&Aに積極的な経営者だ。
これに対しアンハイザー・ブッシュは創業者一族が大株主(といっても5%程度だが)であり、CEOをはじめ経営陣に名を連ねている。歴史の浅い米国においては老舗であり、かつバドワイザーは米国を象徴するブランドでもある。日本人でもほとんどの人はバドワイザーを知っているだろう。それに対してインベブの主力ブランドであるステラ・アルトワは日本における知名度はほとんどないのではないだろうか。そういう意味では、今回の買収劇に首をかしげる人も多いだろう。また、インベブや現在1位のSABミラー(英国)がM&Aによって誕生する前にはアンハイザー・ブッシュが世界最大のビールメーカーであった(これは、世界最大のビール消費国であるアメリカにおいてトップシェアだという意味でもあるが)。
さて、このような異なる生い立ち、企業文化を持つ企業の買収の背景は2つある。ひとつは、規模の拡大による原料コストの削減、もうひとつは地域補完性だ。麦芽をはじめとする食料は世界的に高騰を続けているが、規模のメリットにより資材の調達コストを削減することが可能になる。これは、同じく国際的な再編が続く鉄鋼業界も同様である。もうひとつの地域補完性であるが、インベブがヨーロッパと南米を中心としているのに対し、アンハイザーブッシュは北米中心。インベブにとって手薄な北米市場は押さえたかったはずで、そうすると1位のSABミラー(英国)や3位ハイネケン(オランダ)との統合よりも北米のアンハイザーブッシュを買収するということは理にかなった戦略といえる。

(疑問2)
買収に抵抗していたアンハイザー・ブッシュが賛成にまわった背景は?

(ニュースはこう読め)
アンハイザーブッシュのCEOであるブッシュ四世は当初から買収に反対の姿勢をとっていると報道されているものの、「ブッシュ家にとっての利害でなく、株主価値の観点から価値判断する」と公言してきた。(話はそれるが、保身に走り買収防衛策の導入に力を入れている日本の経営者からは、聞こえてこないセリフだ。アメリカ資本主義の懐の深さを改めて感じた。)
また、アンハイザーの従業員約三万人のうち約七千五百人が加盟する労組「チームスターズ」はインベブが過去に傘下に収めた企業で人員削減を繰り返したことに不快感を表明し「外国企業に買われた場合、うまくやっていくのは困難」として、大統領選の民主党候補に確定したオバマ上院議員に陳情することを決めた。
こうした逆風が吹く中で、どのようにこの交渉は合意に至ったのかとても興味深い。
合理的に判断すれば、株主にとっては成熟市場で今後の伸びが期待できないアンハイザー・ブッシュの株をプレミアつきで購入してくれるインベブに反対する理由はないだろう。(これにくらべると、ブルドックソースの経営者を守ろうとするブルドックの株主の考え方は非常に不合理である)
アンハイザーブッシュの経営者としては、買収に反対する以上、自らの手で経営を続ければ株価が65-70ドル(インベブの買収提示額)を超えるという主張を合理的に展開しなければならない。
しかしながら、アンハイザーブッシュに投資をする機関投資家は、インベブの買収提案を支持する方向に徐々に傾いていった。その主要株主の中には著名なウォーレンバフェット氏も含まれている。こうした株主からの圧力に対して抵抗できなくなった経営陣は買収そのものに反対するよりも、買収に賛成した上でいかに有利な条件を引き出すかに戦略を変更していったものと思われる。その結果、新会社の名前は自社の名前を前に出し、アンハイザー・ブッシュ・インベブとなり、反対を続けていたブッシュ四世も統合会社の経営陣に加わる。
(これと対照的なのが、HOYAとの合併に反対を続け最後に行き場を失ったペンタックスの経営者や、ヒステリックな拒否反応を示し結果的に損をこうむったブルドックソースの株主である。)
いたずらに交渉を長引かせることなく、短期間で交渉をまとめたインベブのブリトCEOの手腕は見事であり、最後には株主の意向に反することなく合理的な判断を下したアンハイザーブッシュの経営陣も交渉上手である。

(疑問3)
世界に取り残された日本企業の影響は?

(ニュースはこう読め)
もはやビールにおいて世界上位メーカーと対抗することは難しい状況である。しかしながら悲観することはなく、海外メーカーがどんなに巨大になったとしても、日本市場における海外ビールメーカーのシェアは1%であり、今後も簡単には伸びないだろう。もちろん原料の調達において負けることは予想されるが、激しい価格競争を繰り広げる日本市場(従って利益率も低い)に参入しシェアを取ることはあまり考えられない。しかも、ビール需要も頭打ちであり、あえて海外メーカーが投資をすることはないだろう。他に魅力的な市場は多いのだから。
この業界ではキリンの戦略が非常に興味深い。ホールディングカンパニー化を果たし、ビール以外の事業をM&Aで伸ばすことを明確にしている。”国内”、”ビール”といった市場にとらわれなければ、成長の機会はあるはずで、今後の戦略が楽しみである。トップダウンでM&Aに積極的な姿勢も見えて、インベブとは違った形の成長戦略(多角化)を描いている。
それに比べるとサッポロは技術系のCEOでM&Aに積極的とも思えず、シェアも下がっていて、先行きが見えない。株価も利益が低いわりに高いままなので、どこかが買収することはないだろう。現在の大株主のスティールパートナーズも次の手で悩んでいることだろう。技術力はあるようなので、経営陣が交代すれば違った展開が見えてくるかもしれない。

2008年7月13日 (日)

MBOって何?なんで経営陣が自分の会社を買収するの?

(ニュースの概要)
オークネットは十日、経営陣による企業買収(MBO)が成立したと発表した。総議決権数の九四・八一%に相当する約千二十七万株の応募があった。買い付け価格は一株あたり二千百円で、総額は二百十五億円強。九月に予定する臨時株主総会で株式の全部取得を決議、十月にも東証一部を上場廃止となる見通しだ。
 藤崎清孝社長が一〇〇%出資する特別目的会社(SPC)を通じて、五月二十八日から七月九日まで公開買い付けを実施した。国内の中古車市場の低迷を背景に、中古車オークション運営大手である同社の事業環境は厳しい。上場廃止後、一般顧客へのサービス拡充など収益構造の抜本的な刷新に乗り出す。
(2008/07/11, 日本経済新聞 朝刊, 17ページ)

(解説)
経営陣による自社の買収がMBO(Management Buy Out)である。オーナー経営者は一攫千金を夢見てIPO(新規株式公開)を目指す。株式の上場は会社にとってもひとつの成功の証とも言える。それにもかかわらず、上場会社を経営者自らの意思で上場廃止にしてしまうのがMBOである。
ところで、経営陣による自社の買収といってもさすがに取締役のポケットマネーで会社を買えるわけではない。そこでどうするかというと、経営陣とファンドなどが出資した会社を設立し、さらに銀行がその会社に資金を貸すことによって、上場企業を買収していくのである。

(疑問1)
せっかく上場した企業を自らの手で上場廃止にしてしまうのはなぜ?

(ニュースはこう読め)
そのヒントは6月2日の日経産業新聞に出ている。”しかし、市場の評価が低迷する中で多額の投資をおこなうと、株価が下がり株主価値を損なう恐れがある。そのリスクを心配しなくて済むようにするのが、MBOに踏み切る大きな動機だ。”
さらに2008年5月27日に公表されたIR情報を読むとその背景が出ている。つまり、環境の変化から料金も下げなければいけないし多額の投資もしなければいけない、それはつまり、一時的な利益の減少は避けられない、と経営陣は読んでいる。そうすると株価はさがってしまう。
業績の悪化、株価の下落は、経営陣の責任問題にも繋がる重大事項である。株価が下がれば敵対的買収のターゲットになる可能性もあがる。きちんとV字回復の見込みを示し株主に対して説明責任を果たすということもひとつの方法であるが、MBOによって一般株主からの声に影響されることなく、会社を抜本的に変えていくということがMBOの大きな目的である。

(疑問2)
オークネットは今後どうなる?

(ニュースはこう読め)
さて、今後この会社はどのようになるのか考えてみよう。まず、TOBは成立し経営陣は94.81%の株式の取得に成功した。これにより臨時株主総会を開き、全ての普通株式に全部取得条項を付して公開買付者がオークネットの株式を100%保有することになる。そして上場廃止になるというスケジュールはきじの通りである。
その後、プレスリリースどおりのシナリオで進むのであれば、今後のオークネットの利益は下がるはずである。しかしながらこのシナリオは将来の成長ための一時的な利益の減少であり、今後継続的に利益が減り続ける、成長しないということは想定していないはずである。もしも今後会社の成長が見込めないのであれば、SPCに対してファンドが投資をするはずがなく、MBOがそもそも成立しないことになる。
ファンドがMBOに参加するということはオークネットの長期的な成長を見込んでいるはずであり、またそうなるようにファンドが積極的に経営に関与していくことも想定される。そして経営が安定成長に乗った段階で、ファンドはその投資の回収に入る。そのひとつの方法として再上場も選択肢に入る。

2008年7月 3日 (木)

M&Aに関する会計基準案公表 会計基準案って何?

(ニュースの概要)
企業会計基準委員会は三十日、M&A(合併・買収)に関する一連の会計基準案と、投資不動産の時価開示に関する会計基準案を公表した。M&Aに関する新ルールでは、合併時に両社の資産や負債を簿価のまま合算する「持ち分プーリング法」の廃止などを定めた。八月二十日まで一般から意見を募り、年内に最終決定する方針だ。(2008年7月1日 日経新聞朝刊 18面)

(解説)
M&Aとは法人単位の組織再編である。例えば合併であれば二つの会社がひとつになる。その際には当然会計書類も今まで2社別々に作成したものをひとつにしなければならない。合併によって決算書をひとつにするわけであるが、単純にそれぞれの決算書を合算した決算書が合併後の決算書となるわけではない。
そのために、M&Aにおける会計基準が定められている。

(疑問1)
何がどう変わったのか?

(ニュースはこう読め)
持分プーリング法の廃止、と聞いて、会計を知らない人にとってはどのような印象を持つだろうか。おそらく、今回のポイントの一番は持分プーリング法の廃止であろう。
このブログは、M&Aの専門家以外の人を対象に書いているので、あまり詳しい説明はしない。
一言で言うならば、持分プーリング法というのは、合併時にのれんの評価をしない方法である。もうひとつパーチェス法というのはのれんを評価する方法である。
例えば、被合併会社(合併される会社)の資産が10億、負債が8億、純資産が2億だったとする。この会社との合併のために合併会社(合併をする会社)が一株1000円の株式を22万株発行したとする。発行総額は2億2000万円と評価される。この合併を持分プーリング法で評価すると資産が10億、負債が8億、純資産が2億のままで22万株発行して2億円の純資産の増加と評価する。
一方で、パーチェス法であれば、純資産の増加額は2億2000万円と評価して、2000万円はのれんとして処理する。要するに2億円の会社を2億2000万円で買ったのでしょう(つまりパーチェス)という話である。
この2000万円は、損(コスト)である、というのがパーチェス法の考え方で、現行の基準では、この2000万円を将来のコストと認識するのである。
ところで、この持分プーリング法は国際会計基準では認められておらず、あたかも日本の会計基準が、世界基準と異なることの象徴として取り上げられていた論点である。しかも、日本で持分プーリング法を適用するためには相当厳格な基準をクリアしなければならず、実質的にはほとんど適用される事例は少なかったので、結果的には日本の会計と国際基準で大きな際はないといえる。それにもかかわらず、日本基準は世界基準と異なるという印象を与えかねない会計基準であったので、今回の廃止に繋がったのであろう。

もうひとつの大きな論点は、のれんの償却である。のれんの償却ということばも会計になじみがない人にとっては、ぴんと来ない単語だろう。もう少し良い名前はないものかと常々考えている。
さて、先ほどの例で言えば、被合併会社の純資産額と買収金額の差額である2000万円はコストであるが、このコストの認識方法が国際会計基準と、日本基準では異なるため、同じ合併を日本基準で決算書類を作成する場合と、国際会計基準で作成する場合とで、印象が大きく異なる。この点についても国際基準への統一が待たれて久しいが、記者会見で会計基準委の逆瀬重郎副委員長は、”「正ののれん」の規則償却をやめるルールについて「(昨年八月に国際団体と合意した)二〇一一年六月末までを目標としている」”と述べたが、ルールづくりに着手する時期については明言しなかった。
個人的には、ほとんど適用事例のない持分プーリング法の廃止よりも、こちらの基準の統一を先行して欲しかった。
上記の例で言えば、のれんの金額は2000万円であるが、大規模なM&Aであればのれんの総額は100億円単位も珍しくはない。日本基準では、最長20年償却、一般的には5年償却を適用する会社も多いので、のれん総額が500億円であれば、毎年100億円の損失(5年償却の場合)が発生する。
それに対して、国際会計基準では、毎年の償却は必要がない。つまり、日本基準で計算する決算書は合併後の利益が100億円過小計上されているようにも見える。これを嫌って(つまり、決算書の見栄えを重視して)M&Aを実行しないケースも起きている。これは本末転倒である。きちんと会計を理解できていればこのからくりはわかるのであるが、パッと見に減益になるのであれば、M&Aを実行しないというケースもあるのである。

なお、国際会計基準では永久にのれんを償却しないわけではなく、その後、被買収企業が計画通り利益を上げていなければ、のれんを費用として認識する(これを減損会計という)。

日本のM&Aも低迷 その理由は?今後の見通しは?

(ニュースの概要)
二〇〇八年上半期に日本企業がかかわったM&A(合併・買収)の総額は、半期ベースで四年ぶりに五兆円を下回った。米住宅問題をきっかけとした金融市場の混乱で買収資金の借り入れが厳しくなったことが背景。経営環境の悪化や景気の先行き不透明感も響いたようだ。M&A助言のレコフ(東京・千代田)の集計によると、〇八年一―六月に発表された日本の上場・非上場企業のM&A総額(交渉中も含む)は、前年同期比二九%減の約四兆八千二百億円だった。件数は同一〇%減の千二百件。(2008年7月1日 日経新聞朝刊 19面)

(解説)
昨日の世界のM&Aが縮小しているというニュースに引き続き、日本におけるM&Aの総額も減少しているという記事である。日経新聞に掲載されているグラフを見ると2004年から2007年までの4年間は年間総額10-15兆円規模であり、半年で5兆円を下回るというのは4年ぶりのことだ。
しかしながら、M&Aの総額というものは大型買収案件の件数によって大きく左右される。したがって、変動率は大きい。グラフを見ると2002年2003年とも年間のM&A総額は5兆円程度であり、それに比較すれば半年で4兆8千億円は十分に大きい。会社の売上がこれほど上下動すれば一大事であるが、M&Aの総額はそもそも変動率が大きいものであるということは、認識しておく必要がある。

(疑問1)
M&Aの総額は変動率が大きいものだとしても、世界のM&A、日本のM&Aともに前年の数値を下回っていることは事実である。なぜこのような現象が起こっているのか?

(ニュースはこう読め)
世界のM&Aの潮流と全く同じ理由で、資金調達の厳しさは理由の筆頭にあげられる。金融市場はその他の市場よりもGlobalに単一市場に近づいており、世界で資金調達が厳しい中、日本だけがその流れに逆行することは考えにくい。とはいえ、日系の金融機関は欧米系の金融機関に比べサブプライムローンにおける損失額は桁違いに小さいので、ここはチャンスではないかと考えている。現に本日の日経一面にも邦銀が外国企業向けの協調融資を伸ばしているという記事が掲載されていた。昨日私が指摘したことが事実として報道されているわけで、自分の仮説が正しかったということだ。ここから類推すると、日本でM&Aに対する資金供給は欧米ほどは細っていないと考えられる。もしそうであれば、年度の後半にはファンドによるM&Aは増えてもおかしくはない。
日本に関して言えば、むしろ、もうひとつの理由のほうが大きいのではないか。その理由とは、買収防衛策の過度の整備により、日本が閉ざされた市場としてのイメージが世界中に広まり、結果として海外からの投資が減少しているというものである。
日本が経済発展を目指すのであれば、海外からの投資を呼び込み、その投資を有効に活用し企業が成長し株価も上昇するという好循環を目指すことが必要である。現在の買収防衛策の導入に対する過剰反応は、業績の悪い企業の経営者の保身とも受け止められかねず、効率の悪い企業経営が長期化する可能性を含んでいる。
こうした懸念から、日本に対する投資(M&A)が減少しているし、今後も減少する可能性は大いにある。買収防衛策に対する深い議論が進むことを期待したい。
(話はそれるが、日本企業の成長率の低さ、生産性の低さは、なんだかんだいっても現状に満足している国民が多いからではないか。もっと経営者も従業員も貪欲に成長を求めなければ、企業価値の向上やそこから発生する経済の成長も難しい。結局外圧によってしか、変われない国民だとしたら、ちょっと悲しい。)

(疑問2)
今後の日本のM&A市場はどのように推移していくのであろうか?

(ニュースはこう読め)
本日の日経の記事には、私が昨日指摘したことが掲載されている。それは、事業会社のM&Aは堅調であり、下期に伸びる可能性は大いにあるということだ。国内市場が飽和状態にあることは紛れもない事実であり、更なる成長を目指したIn-Out(国内企業が海外企業を買収するM&A)は増加する可能性を感じている。
海外から日本企業を買収するOut-Inはファンド系は上述の理由からそれほど増えないかもしれない、しかしながら、通貨が強い経済圏(たとえばユーロ)は、通貨高を背景にして、日本の事業会社を買収することは考えられる。日本市場(消費者市場)には魅力がないので、その他の魅力、例えば技術力であるとか、製品開発力であるとか、何かの強みを持った企業で成長率が低く株価も低迷していれば、買収のターゲットになりうる。
国内企業同士は、飽和している市場に参加企業が多すぎれば必然的に再編が進むであろう。例えば都市銀行の再編は完了したと見ているが、地銀、信用金庫も規模拡大が必要になってくるのではないか。コンビニエンスストアも数が飽和状態に見える。家電量販店はヤマダ電機が買収に積極的だ。携帯電話もこれ以上は伸びないはずなので、製造メーカーは統合によって減っていくかもしれない。
このように国内市場はパイが大きくならないので同業者を飲み込むことで成長を実現していくという戦略が考えられる。

2008年7月 1日 (火)

ファンドによるM&A低迷 M&Aに資金が集まらない理由は?

(ニュースの概要)

世界のM&A(合併・買収)の縮小傾向が鮮明になってきた。今年1―6月のM&A総額(計画ベース)は1兆8440億ドル(約198兆円)と昨年7―12月を15%下回り、半期ベースで2年半ぶりの低水準にとどまる見込み。金融市場の混乱で買収ファンドの資金調達が難しくなり、ファンド主導の企業買収が急減している。世界的な企業再編ブームに一服感が広がる可能性がある。 (2008年6月30日日経朝刊一面)

(解説)

近年M&Aの主役としてファンドがその存在感を増していた。ファンドといっても一般投資家が証券会社で購入するような投資信託ではなく、機関投資家などが大口出資者として資金を拠出しその資金を10年程度の期間で運用することを目的としたファンドである。日本で有名なファンドとしては、アドバンテッジパートナーズやカーライルグループなどであり、バイアウト(買収)ファンドなどとも呼ばれる。
こうしたファンドは、ターゲットとなる企業を丸ごと買収し、数年かけて企業価値を高め、高い価格で売却することによって利益を得ることを目的としている。企業価値を高めるために優秀な経営者を送り込むことも含めて、どのようにその企業の価値を高めていくのかということをその企業と一体になって模索していく。
もちろんファンドには色々なタイプがあって、敵対的買収を仕掛けることによって利益を得ることを目的としていたり(いわゆるアクティビスト、スティールパートナーズなど)、単に株式市場で株を一定比率まで買い占めるが経営に関与することを目的としていないファンド(タワー投資顧問など)もある。
しかし、M&A市場で主役となるファンドといえば、企業を丸ごと買収することを前提としたバイアウトファンドである。

(疑問1)
なぜ、買収ファンドに借入資金が集まらないのだろうか?自己資金で対応できないのか?

(ニュースはこう読め)
日経によると、ファンドに資金提供する欧米金融機関が、米国の信用力の低い個人向け住宅融資(サブプライムローン)関連で巨額損失を計上、融資に慎重になっていることが原因とされる。これは、私が実務者から聞く話と一致している。本来であれば、サブプライムローンの被害が少ない金融機関であれば、これを機に新規融資に応じるように思えるが、そうでもなさそうである。やはり、金融機関に融資余力がないというよりも、株価低迷でファンドによる買収企業の売却が難しくなり、融資リスクが増すことが主因と見るべきであろう。
仮に予定通り買収が完了し、企業価値が上昇しても、株式市場が低迷しているために、新規上場後の株価が思ったような価格にならないことも懸念される。高値で転売できない可能性が上がっているために貸付資金を供給できないということだ。(注:個人的には、買収対象企業の本業がしっかりと利益を稼げると考えられれば、株式市場がどうであれ、LBO(レバレッジドバイアウト、借入による買収)は、可能ではないかと思っている。しかし、バイアウトファンドに対する資金供給が細っていることは事実である。)

しかしながら、資金の融資を受けられないのであれば借入金に頼らずにファンドの自己資金で買収すればよいのではないかと思う人もいるだろう。現にファンドは多額の資金(規模にもよるが数十億から数百億の単位)を有している。
これには、ちょっとしたファイナンス理論が絡んでくるのであるが、全額自己資金による投資よりも、借入金と組み合わせた投資のほうが、利益率(絶対額ではなくて、利回り)があがるのである。そのため、ファンドは借入資金が手当てできないと投資ができなくなってしまうのである。

(疑問2)
買収ファンド以外のM&Aも減っていくのであろうか?

(ニュースはこう読め)
M&Aの主役(買手)は買収ファンドだけではない。当然、一般の事業会社も買い手になりうる。そして多くの企業は成長戦略の一つとしてM&Aを検討しており、友好的なM&Aはもはや特別な経営戦略ともいえない。(例えば、前回の第一三共とランバクシーのケースなど)
そういった観点からは、事業会社によるM&Aは今後も減ることはないだろう。M&Aによって双方にメリットを感じられればお互いの強みをうまく取り込むことができる。マネジメント能力に優れ、効果的なM&A戦略を立案できる企業は、さらに伸びる可能性は大きい。逆に、買収防衛だけに目を向けている企業には、成長戦略をどのように描いているのか疑問を感じることも多い。
一般的に、不況により金利が下がり、株価も下がっている状況においては、企業の買収コストは下がる。その上、ファンドによる買収も減れば、買い手が減るため、入札のケースでは同じ企業を買収するための買収価格は下がるはずである。
事業会社のM&Aにとっては、環境が好転していると考えるべきである。

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