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2009年2月20日 (金)

Out – In 更なる成長を求めて海外へ ― 日本製紙、豪3位買収を発表

(ニュースの概要)

日本製紙グループ本社は十六日、豪製紙三位のオーストラリアンペーパーを買収すると正式発表した。買収額は六億豪ドル(約三百六十億円)で日本の製紙会社の海外M&A(合併・買収)では過去最大規模となる。ライバルの王子製紙と比べて出遅れていた海外事業で巻き返し、内需依存からの脱却を急ぐ。2009/02/17, 日本経済新聞 朝刊, 11ページ

(解説)

国内市場の飽和、縮小 -> 成長を求めて海外へ、という方程式は、ここ最近の定番である。最近のビールメーカーのM&Aを見ても顕著な動きだ。それに加えて円高基調にあるという要因もある。製紙業界は業界再編が起こると予想されつつ、王子製紙が北越製紙へのTOBに失敗して以来、こう着状態が続いているように見える。その状況を打破する意味でも海外での成長にフォーカスするということだろう。

(疑問1

株価への影響は?

(ニュースはこう読め)

216日の日経朝刊一面に報道されてから、1617日と株価は上げたがその後1819日は日経平均の下落に引きずられるように下落している。これは、UBS証券の目標株価引き下げも大いに影響していると考えられる。それによると豪州製紙メーカーの買収も、短期業績への貢献は限定的な上、低収益・低成長と見られる同事業に360億円拠出する同社の戦略に疑問を感じる」と指摘した上で、投資判断は「Neutral」を継続、目標株価は3,600→2,500円へと引き下げたことが嫌気されている。

(疑問2)

360億円の買収価格は妥当か?

(ニュースはこう読め)

買収価格に影響を与える要因の大きなものは3つある。ひとつは、現在の収益水準、利益率、もうひとつはその成長性、最後は安定性だ。現在の収益水準が低くても高成長が見込める業界(会社)であれば、高値での買収も合理性がある。また、利益率が低くても安定的な利益が見込めるのであれば、高い利益率で不安定(つまり業績の変動が大きい)会社よりも高値がつく場合も考えられる。

現在の利益水準と株価(時価総額)を比較すると株価が割高か割安かの判断ができる。同じような成長性であれば(つまり同じ業種であれば)、その比率は通常あまり変わらない。成長率や安定性は同じ業界に属していればそれほど変わらないと推測されるからだ。同じ業界で伸び率が顕著であれば(つまり今後のシェアの増加が見込まれれば)その比率は他社よりも高くなる。

ここで単純に試算してみよう。日本製紙の営業利益(20093月期見込み)が240億円。219日の終値ベースでの時価総額は2727億円。有利子負債は8049億円。有利子負債と時価総額の合計(これがEVとなる)は1776億円となる。この数字を営業利益で割ると45倍となる。これはEV/EBIT 倍率といって、買収価格のひとつの指標になる。

一方買収対象のAP社であるが、有利子負債が書いていないので推計する。総資産が876億円。日本製紙と同じ財務構造と仮定すれば、総資産の50%が有利子負債となるので、438億円。360億円と438億円の合計は798億円。このEVを営業利益(EBIT)の18億円で割ると44倍。ほぼイーブンである。

ここから推計すると、オーストラリアでの製紙業界の成長率は日本と同様(つまり成熟産業)であると見ており、割高でも割安でもないように見える。この買収によって日本製紙のEV/EBIT倍率は変化しないため、理論的には株価には影響を与えないように見える。

2009年1月14日 (水)

赤字事業からの撤退 業界再編 ― HDD事業 東芝、富士通と買収交渉

(ニュースの概要)

東芝は富士通のハードディスク駆動装置(HDD)事業を買収する方向で最終調整に入った。月内の合意を目指す。東芝は買収により、ノートパソコンなどのデータ記憶装置として成長が期待できる小型HDDで世界首位に浮上。富士通は収益改善に向け赤字の同事業から撤退する。

2009/01/14, 日本経済新聞 朝刊, 1ページ

(解説)

まず、2008102日の日経1面に富士通がHDD次長を米ウエスタンデジタルへ売却すると報じられた。売上3300億円規模の事業からの撤退という国内電機大手の事業売却では過去最大級という。売却の意図は明確で、赤字事業からの撤退で収益基盤を固めるというものだ(この報道に関しては同日に富士通は否定のコメントを出している)。営業損失を計上している事業にもかかわらず、売却交渉金額は700-1000億円の見通しだった。しかし、一転して、20081227日の日経にはこの売却を断念するという記事が掲載された。理由は、雇用の維持という面で折り合えなかったこと、円高の影響によって買収金額の折り合いのメドがたたなかったこと、と報じられている。

そこから、さらに転じて、東芝への売却という方向に進んでいる。東芝への売却の可能性は、2008106日の日経産業新聞26ページでの社長インタビューで、明確に否定されていたにもかかわらずである。本当に何が起こるかわからない。

売却金額も300-400億円の見込みと昨年の交渉金額から大幅に引き下げられている。ただし、山形富士通のハードディスク生産部門など一部の部門を引き取らないようで、単純には米ウエスタンデジタルとの交渉金額との比較はできない。

ウエスタンデジタルへの売却の決め手となったのは、事業の一括売却が可能という点であった。東芝への売却はこの報道にもあるとおり、一部の事業は引き継がない。にもかかわらず売却交渉を進めているということは、富士通側にも売却を急ぎ、事業の再編を加速する必要性に迫られていると読むべきだろう。

なお、本報道に対して、報道の直後に両社からのプレスリリースは開示されておらず、肯定も否定もされていない状態である。

(疑問1

株価への影響は?

(ニュースはこう読め)

直後の東京株式市場では、東芝は小幅安、富士通は大幅に反発、となっている。東芝に関しては、前日に営業赤字見通しが報じられ、さらに赤字事業を買収するという点で、2重にマイナスの材料になっている。しかし、買収を決めたということはそれなりの勝算があり、事業の黒字化、既存事業とのシナジーを進めるということであるため、一概に株価が下がるということは説明できない。現在の株価は割安という見方もできる。

富士通に関しては、赤字事業を300-400億円で売却するために、キャッシュフローの大幅な改善が見込まれるため、株価が上昇することは当然ともいえる。もちろん、今までの株価にこの事業売却が織り込まれていないということが前提ではある。

(疑問2)

次の再編は?

(ニュースはこう読め)

富士通に関して言えば、今回の売却対象とならなかったHDDの部品(ディスク)製造子会社である山形富士通のハードディスク生産部門の売却先を探すということが最重要課題となる。報道でも、昭和電工への売却打診が報じられている。雇用の維持を最重要視するのであれば、ファンドなどのフィナンシャルバイヤーよりも、同業他社(ストラテジックバイヤー)への売却という選択肢を取るだろう。

一方、東芝は、半導体不振で7年ぶりの赤字見通しの中での積極投資であり、早急な事業再編を進めなければならない。小型HDDの分野では世界首位に浮上することから、更なる競争力の強化が期待される。

2009年1月 4日 (日)

2009年を占う

2009年を占う

激動の2008年が終わり、2009年はどのような年になるだろうか。
M&Aが増える要因、減る要因を整理してみよう。

増える要因
マクロ的に考えると供給過剰の調整がいっそう進むはずだ。つまり、2007年までの経済成長率(全世界規模で5%程度)を前提とした増産計画はすべて白紙撤回され、余剰設備、余剰人員の削減が急務になる。人員に関していえば、派遣切りはすでに2008年のニュースであって、2009年は正社員切り、リストラが進むということが予想される。派遣社員の整理だけでは余剰人員の整理が追いつかないということを意味する。それほど、需要が急速に落ち込んでいる。不要不急の消費は先送りされ、それにあわせて設備投資も先送りどころか縮小を余儀なくされているのが現状である。

さて、供給過剰に対する処方箋はバブル崩壊後の日本経済を振り返ればヒントがあるはずだ。当時は不良債権処理が連日のように報道され、銀行の倒産や国有化が相次いだ。貸し渋りや貸し剥がしという言葉も生まれた。その結果、都銀同士の合併が進み、経済規模に合った会社数に絞り込まれた。

では今後業界再編が起こりそうな業種はどこだろうか?
昨今、業績の急速な悪化が報道されているのが自動車である。トヨタですら赤字となる急速な需要の減少であり、関連するすべての会社にとって猛烈な逆風が吹いている。前回のバブル崩壊時には日産がルノー傘下となったが、今回はどうなるか?GM、フォードが資産売却に走る中、積極的に日本企業買収に走る可能性があるのは、比較的業績が好調であるVWくらいか。VWは日本企業との提携関係もなく、マツダやスズキに出資する可能性はあるかもしれない。また、自動車部品メーカーも今後は淘汰が進む可能性がある。研究開発費の圧縮のためには系列を超えた同業同士の合併もありえる。

自動車需要の動向とも関連が深い石油業界も更なる再編の可能性を感じる。2008年にリリースされた新日本石油と新日鉱ホールディングスの経営統合によって、他社も単独での経営を続けるか否かの判断を迫られることになるだろう。昨年の原油価格の高騰は業界各社の利益を一時的に押し上げる効果があったにせよ、小売、元売、の淘汰は進んでいるように見える。価格以外の差別化要因がほとんどない業界において、また装置産業であることを考えると、寡占化が進まない限り今後の経営は厳しくなるだろう。

もうひとつ注目したい業界は、人材派遣業だ。人材派遣には急速な逆風が吹いており、登録派遣社員の少ない会社の存続は厳しい。大手同士の合併よりも中堅以下同士の統合が進むのではないか。

余剰人員、余剰設備調整の意味でのM&A以外にもプラス要因は考えられる。GM,Fordが子会社売却に走ったように、資金調達の意味での子会社売却である。日本企業はバブル期を経て財務体質が健全化している。そのために、このような事業売却のニーズは今のところ少ないように思われるが、業績が厳しくなり財務が悪化する前に手を打つという経営判断も増えるのではないか。

一方で、世界のほかの企業よりも健全な財務体質を強みとしてIn-Outの買収は増えるだろう。円高も追い風となっている。どう考えても国内需要が飽和している日本でのシェア争いには限界があり、いままで海外のM&Aに積極的ではない企業でも今後は海外企業の買収を検討するようになると思われる。

減る要因
とはいえ、2009年はマイナスの要因も多い。最大の要因は資金調達だ。銀行も積極的な融資は控えている。貸し剥がしまでは大きく報道されていないが、積極的な融資は減るだろう。企業も借り入れ金額が増えることによる格付けの低下、借り入れ金利の上昇は避けたい。人員整理も検討する状況下において、積極的な投資を推進することは控えるだろう。M&Aどころではないという企業も多いはずだ。

2008年10月 2日 (木)

合弁解消

(ニュースの概要)
富士通と独シーメンスは欧州でのコンピューター合弁会社を富士通の完全子会社にする方向で調整に入った。富士通はシーメンスが保有する五〇%の株式すべてを買い取る方針を伝えており、年内の合意を目指す。海外部門の収益力強化が急務の富士通は経営権を完全に握り事業の再構築を加速。採算が悪化している個人向けパソコンから撤退し高収益の企業向けに特化するなど、欧州事業の見直しを進める。

2008/09/24, , 日本経済新聞 朝刊, 1ページ

(解説)
両社は一九九九年十月、オランダに「富士通シーメンスコンピューターズ」を設立した。この合弁会社『富士通・シーメンス・コンピューターズ』は、富士通の欧州現地法人『富士通コンピューターズ・ヨーロッパ (Fujitsu Computers Europe Ltd.)』(売上げ:約20億ユーロ、従業員:約1,600 人) と、シーメンスのコンピュータ部門『Siemens Computer Systems』(売上:約40億ユーロ、従業員:約8,000人) の開発・製造・マーケティングを統合して設立した。富士通、シーメンスの持株比率は共に 50%で、両社から同数の取締役が任命されるという典型的な合弁会社(JV)だ。このJV設立前に両社は20年以上の協力関係にあり、さらに1999年に広範囲な提携で合意をし、その合意の一環として設立された会社が富士通シーメンスコンピューターズである。
当初の予定では、パーソナルコンピュータ・IA(Intel Architecture)サーバ・UNIXサーバ・大型汎用機を合わせた世界市場において、富士通とシーメンスを合わせて第5位の売上げだったものを、この提携により、世界のトップ3を目指すといっていた。
売上が当初60ユーロだったものが、直近では66億ユーロ。10%の伸びではあるが、設立から10年が経過しようとしているこの段階で10%の伸びは、当初の計画通りではなかったものと想像できる。
PCに関していえば、世界シェアはHP、Dellの2強にLenovo、Acerが続き東芝が5位、という状況のようである。おそらく、富士通シーメンス、ソニー、Appleで6位を争うという状況であろう。サーバや大型汎用機を合わせればもう少し順位は上がりそうだ。

(疑問1)
シーメンス撤退の背景は?

(ニュースはこう読め)
JV設立時にはシーメンスの売上が40億ユーロであり、富士通の売上20億ユーロの倍の規模であった。この規模の差で50%-50%のJVを設立したということは、シーメンスの事業における利益率が低いことを意味する。そうでなければ、50-50にならない。シーメンスとしては利益率が(当時から)低かったコンピュータ部門を利益率が高い富士通との合弁化によって改善することを狙ったのであろう。
設立から10年という節目において、コンピュータ事業から撤退するということは最近のシーメンスの動きを見ていれば自然に見える。2005年に携帯電話事業を売却したことをはじめ、電子製品市場から徐々に撤退を始めて、タービンや鉄道車両やオートメーション設備などの工業製品の生産に重点をシフトさせてきている。合弁会社設立後も著しい伸びを達成することもなかったため、撤退は当然の流れといえる。

(疑問2)
富士通による買収の背景は?

(ニュースはこう読め)
富士通にとってはコンピュータ事業が本業であり、シーメンスにとってのコンピュータ事業と、富士通にとってのコンピュータ事業はその意味合いが全く違う。富士通にとって世界シェアを維持するためにもヨーロッパという大きな市場からの撤退はその選択肢にはないはずだ。富士通の連結売上は5兆3000億円であり、そのうちヨーロッパでの売上は7699億円とアメリカにおける4699億円よりも3000億円多い。また、富士通シーメンスは50-50の合弁会社であり、連結子会社ではない。連結子会社ではないという意味は、連結売上高に富士通シーメンスの売上66億ユーロ(154円換算で、1兆164億円)は含まれていない(利益のうち出資比率部分、すなわち50%は連結利益に反映されている)。
利益面では、ヨーロッパとアメリカで完全に逆転する。ヨーロッパにおける営業利益7億円に対しアメリカは92億円。ヨーロッパの利益率の低さ(0.09%!)が目立つ。富士通シーメンスもかなり低いが税引き前利益率で1.5%だ。アメリカの営業利益率は2%。
記事によれば利益率の低い個人向けパソコンから撤退する方向であり、それによって、1.5%の利益率がアメリカ並みの2%にはなるだろう。さらに合弁会社特有の意思決定スピードの遅さが解消されることによる伸びは期待できる。

(疑問3)
株式売買価格に2倍の乖離がある。なぜか?

(ニュースはこう読め)
富士通の買取希望価格は5億ユーロ、シーメンスの売却希望価格は10億ユーロと報道されている。税引き前利益で1億ユーロの会社であり、50%の株式を買い取るための価格としては、5億ユーロでは利益の10倍(1億ユーロの利益の50%で5000万ユーロ。これを5万ユーロで買い取れば10倍)。10億ユーロでは利益の20倍になる。
富士通のPERを見ると約20倍である。つまり税引き後利益の20倍ということであり、税引き前利益の20倍を要求するシーメンスの価格は高すぎるように見える。足元をみられているかもしれない。個人的には利益率(と成長率)の低いビジネスであれば5億ユーロでも高いと思う。
また、個人向けパソコン事業の売却金額にも影響されるだろう。これが仮にDellなどに高く売れれば、株式の買い取り価格にも反映される。10億ユーロはそれを高めに見込んだ金額かもしれない。

2008年9月15日 (月)

増えるMBO その後

(ニュースの概要)
MBO(経営陣が参加する買収)で株式を非公開にした企業の再建が遅れている。MBOは再上場して投下資金を回収するのが一般的だが、七割近くが再上場の具体的な計画を持っていないことが分かった。事業環境の悪化で業績が思うように回復しないケースが増えており、再上場そのものを断念したところも多い。MBOによる企業再建モデルは変質を迫られているようだ。
2008/09/05, 日本経済新聞 朝刊, 3ページ, 有, 1173文字 

(解説)
株価の低迷によりMBOを検討する企業は多い。しかしながら、MBO後に事業を再編し、再上場というシナリオどおりにはなかなかいかないようだ。事業の再編はMBOするかしないかには影響しない。MBOによって、例えば経営陣が変われば、あらたな戦略に基づいて事業価値が上がる可能性はある。あるいは、MBOに協力したファンドから経営のノウハウや、戦略作成のアドバイスを受け、それによって会社が立ち直ることはありえる。これでうまくいったケースはカーライルが出資したキトーだ。
そうでなければ、MBOしたからといって、簡単に業績があがるはずもない。MBO後にどのように会社の価値を上げるのかという戦略が描けなければ絵に描いたもちで終わってしまう。

(疑問1)
よいMBOとは何か?

(ニュースはこう読め)
個人的には、上場企業を非上場化させるMBOには積極的に賛同できない。再上場を目指すという時点で、なんとなく自己矛盾を感じてしまうからだ。この記事を見ても結果としてあまりうまくいかないようだ。
私が考えるよいMBOとは、例えば、親会社から独立を目指す子会社の経営陣が取るMBOだ。これは、親会社が何らかの事情で子会社を他社に売却しようと考えているとする。子会社の経営陣としては、まったく新規の親会社の元で経営をすることを求められる。うまく戦略が合えばよいが、買収した新しい親会社と組むデメリットもありえる。そうであれば、自らが自社の株式を購入することによって、独立する、さらには新規上場を目指す、という気概のある経営者が実施するMBOであれば、これは良いMBOといえる。
今の親会社の元ではさまざまな制約があるが、独立することにより経営の自由度が上がり、さらにはモチベーションも上がる。このようなMBOであれば、日本の経済の発展にも繋がるし、個人的にも応援したくなるMBOである。

2008年9月 3日 (水)

さらに続く海外企業の買収 その意図は?

(ニュースの概要)
塩野義製薬は一日、米ナスダック上場の中堅製薬会社、サイエル・ファーマを買収すると発表した。総額で十四億二千四百万ドル(約千五百億円)を投じ、完全子会社にする。全米に約八百人の営業員を持つサイエルを傘下に収め、世界最大の医薬品市場である米国での販売体制を強化する。

オンワードホールディングスは一日、ドイツの高級衣料品・雑貨ブランド「ジルサンダー」を買収すると発表した。ジルサンダーの事業会社を傘下に持つバイオリンエスエーアールエル社(ルクセンブルク)の全株式を一億六千七百万ユーロ(約二百六十四億円)で十月上旬に取得する。有名ブランドの取り込みで、海外事業を強化する。
 日本のアパレル会社の海外ブランド買収では、レナウンの英アクアスキュータム社の買収額(約二百億円)を抜き、過去最大規模となる。

2008/09/02 日本経済新聞 朝刊 11面

(解説)
先日のキリン、リコーに引き続き、日系企業が海外企業(アメリカ、ドイツ)を買収するニュースである。塩野義のケースではアメリカのナスダック上場企業の買収ということもあり、投資金額は1500億円、かたやジルサンダーは高級有名ブランドではあるものの、一桁違う260億円の投資金額である。

(疑問1)
買収金額ってどうやってきまるの?

(ニュースはこう読め)
日本における会社の知名度からいえば、消費財を販売しているジルサンダーのほうが高いだろう。高級ブランドとして名前は世界的に認知されている。かたや、サイエルファーマを日本で知っている人はどれだけいるだろうか。少なくとも私は全く知らなかった。要するに知名度と買収金額は関係ない。

非買収会社が上場している場合には、少なくとも買収時点における市場株価が基準となる。一般的には過去の株価の平均値にどれだけ上乗せして買収するかという話だ。塩野義製薬の買収にあたっては、このプレミアムが57%になっている。

一方オンワードのケースではジルサンダーの株主は投資ファンドである。このようなケースにおいては市場株価が存在しないために、結局は相対での交渉次第だ。投資ファンドには目標としている投資収益率があるので、それを上回っていれば基本的に売却する。オンワードとしてはその買取価格と、今後の収益を天秤にかけて、買収の判断を下す。

それにしても、製薬会社と比べるとジルサンダーの価格はとても安く見える。これはとりもなおさず、その収益性の違いである。つまり、製薬会社の利益が大きいということだ。アパレルに関していえば、高級ブランドといえども利益率は思いのほか小さいのだなあということが実感できる今日の記事である。

2008年8月31日 (日)

続く海外企業の買収 リコーは販社を押さえて世界シェアトップを狙う

(ニュースの概要)
リコーは二十七日、米情報機器販売大手のアイコンオフィスソリューションズ(ペンシルベニア州)を買収すると発表した。買収額は十六億千七百万ドル(千七百二十一億円)。複写機など事務機器の国内市場が伸び悩むなか、メーカー各社は欧米の販売網拡充を急いでいる。リコーの複写機の世界シェアはキヤノンに次ぐ二位。同社にとって過去最大の買収資金を投じて販路を広げ首位獲得を目指す。日本企業が成長を求め海外企業を傘下に収める大型買収が加速している。

2008/08/28 日本経済新聞 朝刊 9面

(解説)
先日のキリンに引き続き、日系企業が海外企業(アメリカの上場企業)を買収するニュースである。1700億円といえば大金であるが、これくらいのニュースでは日経の一面にはもはやなりえないのであろうか。アメリカの上場企業を買収するということでアメリカ時間の8月27日の朝、プレスリリースが流された。その意味では日本時間の28日の朝刊では、既にニュースバリューとしては低いということも原因かもしれない。
日本の場合、プレスリリースの発表はその日の取引が終わった夕方に公表されることが多いような気がするが、アメリカの場合は、その日の取引が始まる直前の朝、発表することが多いのだろうか。気になるところではある。

日系企業による海外企業の買収は確実に一般的になりつつある。企業が買収に慣れてきたということもあるだろうし、成熟市場においては新規に事業を立ち上げることが事実上難しいという事情もあるだろう。この買収は、メーカーが販売会社を買収するという点で非常に興味深い。川上(原材料)から川下(消費者)までの全てのビジネスフローを眺め、その中でどこを押さえれば競合に勝てるのかを考えるとこの買収の事情が見えてくる。

たとえば、製鉄会社が鉄鋼商社を買収するという話は聞かない。むしろ、資源供給元である鉄鉱石企業の買収に乗り出している。リコーは反対に川下の販売会社を押さえることによって、マーケットシェアをあげる戦略である。

(疑問1)
原料供給会社と買収するケースと販売会社を買収するケースの違いは何?

(ニュースはこう読め)
利益の源泉がどこにあるのかを冷静に見極める必要がある。製鉄業の場合には世界的な資源高が影響しており、また、その規模の違いから、力関係が逆転し、製鉄会社に価格交渉力がなくなってしまった。つまり、仕入先からこの価格で買わなければ他社に売るといわれた場合、代替仕入先が確保できなければ、その価格で買わざるを得ないという状況が生まれている。(そういう意味では、原材料の値上げに苦しむ食品会社でも状況は同じである。しかし農産物の場合には鉱工業製品と違って農家を買収するということにはならないと思うが。)

逆にリコーのケースでは、販売を押さえたものが勝つという構造になっている。つまり直接消費者に販売できなければ、代理店を通じて販売することになり、代理店を押さえる、販売力を得た会社がシェアを取るという構図になる。消費者が指名買いをするのでなければ、代理店にそろえてある商品、代理店が勧める商品を買う傾向にあり、ここがシェアを拡大するためのポイントとなる。

この場合、商品に代替性があり、スイッチングコストがかからないことが前提となる。つまり、ある会社が複写機をキャノンからリコーに変えたときに、何らかの不都合が生じると、商品の入れ替えは進まない。不都合とは、たとえばメンテナンスコストが大幅に上昇するとか、修理を依頼したときにキャノンのほうが早く対応するとか、機械の使い方が全く違うために、入れ替えることにより新たに使い方をマスターしなければならないとか、そういうことが起こるのかどうかである。起こるのであれば、すぐに入れ替えはできないだろう。新聞報道によると、アイコン社は取り扱い製品の6割がキャノン、3割がリコーである。そして専務のコメントによれば、入れ替えには相当な労力がいるそうであり、何らかのスイッチングコストがかかると考えてよいだろう。

うまく短期間で入れ替えが進めば、リコーのシェアがのぞめる。報道直後のリコーとキャノンの株価を見ると、市場ではリコーの戦略が期待できると評価している。(リコーの株価は3%上がり、キャノンは5%下がった)

また、代理店販売の代わりに直販を増やすという選択肢もあるが、直販を増やすためのコスト増を吸収できないと判断されれば、代理店の買収が最適解となる。

(疑問2)
アメリカの販売会社(アイコン)にとってのメリットは何?

(ニュースはこう読め)
さて、アイコン社の経営者の立場からこの買収を見てみよう。(なお、M&Aは敵対的でない限り双方の合意で進められる。新聞報道では敵対的買収が大きく報じられるが、ほとんどのM&Aは友好的な交渉で進むのである。)
アイコン社はアメリカで上場している情報機器販売の大手企業である。
日経新聞にはアイコン社のコメントは出ていない。こういう場合はアイコン社のプレスリリースや海外の報道記事を見るとよい。それによると、アイコン社の近年の業績はアメリカの不景気も影響して芳しくないことがわかる。リストラもして何とか立ち直ってきている状況だ。経営陣としてはこのまま自力での成長には限界があると判断したはずである。マーケット全体が落ち込んでいるのであれば、水平統合によって規模を拡大して生き残りを図ることも難しい。このような環境化においては、キリンのように多角化を計ることも選択肢のひとつではある。今回のケースではリコーと一緒になることによって、経営を維持するという選択肢を選んだ。

M&Aを見る際には買手、売り手両方の思惑が一致することが不可欠であり、その思惑を考えながら記事を読むと、背後で何が起こっているのが見えてくる。

2008年8月28日 (木)

なぜ、キリンはM&Aに積極的になったのか。

(ニュースの概要)
 キリンホールディングスは二十五日、オーストラリア乳業二位のデアリーファーマーズを買収すると発表した。金額は引き継ぐ有利子負債分を含め八億八千四百万豪ドル(約八百四十億円)。近年の海外M&A(合併・買収)では二千九百四十億円をかけた同国乳業最大手ナショナルフーズに次ぐ規模となる。国内ビール事業は伸び悩みが鮮明となっており、M&Aによる海外事業拡大で成長を目指す。
2008/8/26, 日本経済新聞 朝刊, 11面

(解説)
キリンホールディングスが積極的に買収を進めている。しかも、ビール会社ではなくて、製薬会社や乳業会社を買っている。キリンのメインビジネスはいわずと知れたビール。発泡酒、第三のビールなど新ジャンルも増えているが、ビールのシェアにおいて、アサヒビールと激しい首位争いをしている。そのキリンが、なぜビールと全く違う分野の企業を買うのか、また国内の乳業メーカーではなく海外メーカーを買う狙いは何かといえば、国内ビール事業は伸び悩みを補うための成長事業を手に入れるためである。
もはや、キリンはアサヒとのシェア争いに全精力を注ぐ時代ではないと悟っている。マーケットの定義を”国内”、”ビール”から広げて、その新しく定義されたマーケットでどのような付加価値を出せるのかにシフトしている。これは、社長のインタビューにもあるように純粋持株会社に移行したことが大きい。

(疑問1)
純粋持株会社に移行することにより、なぜ、大胆な投資が可能になるのか?

(ニュースはこう読め)
加藤社長はインタビューで「(昨年に)純粋持ち株会社に移行しことでグループ経営の視点で(重点分野に)大胆な投資が可能になった。(昨年の協和発酵買収を含めたM&Aは)事業会社の形態では難しい『飛躍的な成長』を実現するためだ」と語っている。
加藤社長はキリンホールディングスの社長であって、キリンビールの社長ではない。この違いは大きい。キリンビールの社長である限り、乳業や製薬業はどうしても二の次になる。ビールのシェアを上げることが社長としての第一優先事項になりかねない。
ところが、キリンホールディングスの社長という立場で経営をすることになると、必ずしもビールが最優先ではなくなる。そして、例えば100億円をビール事業に投資するのと、新規事業(たとえば乳業)に投資するのとどちらが将来のリターンが増えるのかを冷静にかつ同列に見ることが求められる。
たとえば商品のライフサイクルと同様に事業にもライフサイクルがあると考えられる。ビール事業に関して言えば、国内も伸びが期待できず、海外はとっくにM&Aが進んでしまっていて、いまさらキリンが進出する余地は少ない。
そう考えれば、おのずと違う事業に投資をしてそれを育てる方が、ビール事業に固執するよりも成長の余地が大きいことがわかる。

(疑問2)
ナショナルフーズを買収したにも関わらず、なぜ同じ国の同じ事業の会社を買収するのか?

(ニュースはこう読め)
今回の買収はキリンホールディングスの子会社になったナショナルフーズがデアリーファーマーズの株式を買い取る方式だ。ナショナルフーズはデアリーファーマーズを買収し規模の拡大による生産効率性の向上が期待できる。
多少、独禁法に絡んで一部の事業を売却する必要性がありそうだが、それでも売却後に残った事業で十分採算性が取れるのであろう。
それよりも、もっと重要なことは、世界的な乳製品の品薄だ。今春のバター不足は皆さんご存知の通りである。これは国内の生乳生産量が減少し、バターの原料が減ったことに起因する。元をたどれば、飼料コストが上昇し、それを価格転嫁できない酪農家が次々と廃業していることが原因となっている。
しかしながら、アジアを中心に乳製品需要の上昇が見込まれている。生乳生産の価格競争力が高い国はオーストラリアだ。日経MJの記事によれば、生乳100kgを清算するのにかかるコストは、アメリカ5257円、日本7707円に対し、オーストラリアは2380円である。アメリカの半分以下、日本の3分の1以下のコストで生産できるということは、アジア向けの輸出を考えたときの競争力の差は大きい。
ビールの需要の頭打ち、乳製品の需要増加の見込みを見抜き、最も競争力のあるオーストラリアの乳製品企業を押さえたキリンの戦略は注目に値する。
キリンの次の一手としては、需要拡大が見込めるアジアでの販売網確保だろう。

話はそれるが、ちなみに、日本ではチルド輸送を前提とした牛乳を販売しているが、海外では加熱処理をして常温で1ヶ月保存できる製品が主流である。オーストラリアからはこのような形で牛乳をアジア向けに輸出するようだ。
日本でも牛乳の品薄が続くようであれば、このような常温保存可能牛乳の輸入が必要になるだろう。おそらく待ったなしの状況だ。生産コストが3分の1であれば、輸送費を考えても十分可能である。そして、安価な海外の牛乳と高価な国内産チルド牛乳の二分化を進める必要があるのではないか。酪農家も牛乳の価格が上がれば安心して生産に打ち込める。消費者もチルド牛乳にこだわる人は今後も安定供給を受けられる。価格にこだわる人は安価な牛乳が手に入る。
農林水産大臣に言わせると日本の消費者はやかましいらしいが、もしそうであれば、関税を引き下げ選択肢を複数用意して(安い牛乳と高い牛乳)、それを選ばせるというのが政治家の務めだろう。酪農家を保護するために関税をかけているのに離農が相次ぐ状況は皮肉である。

2008年8月12日 (火)

マネジメントバイアウト(MBO)って何? 経営者による買収?

(ニュースの概要)
 外食大手すかいらーくの主要株主である野村グループなどの投資会社二社が、創業一族の横川竟社長に退任を要求したことが二十九日明らかになった。国内最大規模のMBO(経営陣が参加する買収)で再上場を目指しているが、ガソリン高に伴う外食不振で業績が改善せず、両社が不満を強めた。
 すかいらーくは二〇〇六年、野村プリンシパル・ファイナンスと英投資ファンドCVCキャピタルパートナーズに横川氏ら経営陣が加わり、MBOで非上場化した。MBO額は二千七百億円と国内最大級。経営改革を迅速に進めるため上場を一時的にとりやめた。
 投資した野村プリンシパルの持ち株比率は昨年末時点で六一・五%。CVCは三五・六%。二社で九七%の議決権を持つ。二社は改革を通じ収益力を高め、〇九年中にも再上場を果たすシナリオを描いていた。
2008/07/30, 日本経済新聞 朝刊, 1面

その後の報道で結局、すかいらーくは十二日の臨時株主総会とその後の取締役会で、主要株主の投資会社二社から退任を求められていた横川竟(きわむ)社長(70)を解任し、生え抜きの谷真常務執行役員(56)を後任社長に選ぶことが明らかになった。株主と経営者の異例の対立は、資本の論理を盾にした投資会社側に軍配が上がり、創業一族が表舞台から去る。日本最大のMBO(経営陣が参加する買収)はどこでつまずいたのか。
2008/08/09, 日本経済新聞 朝刊, 11面

(解説)
MBOとは、あまり耳慣れない言葉ではないか?一般的には、マネジメント・バイアウト(MBO、Management Buyout、経営陣買収)とは、会社の経営陣が株主より自社の株式を譲り受けたり、あるいは会社の事業部門のトップが当該事業部門の事業譲渡を受けたりすることで、文字通りのオーナー経営者として独立する行為のこと、といわれている。(Wikipediaより)
この説明に間違いはないが、これだけ読むと誤解を生じやすい、あるいはわかりにくい。そもそも、なぜいったん上場しながらMBOで非上場化するのか、そこからして、ぴんと来ない人が多いだろう。普通は上場を目指すものである。さらにオーナー経営者として独立したのに解任されるというのも不可解だ。

MBOを実施した2006年当時から外食産業の市場が縮小する一方で、競争が激化しており、すかいらーくの業績も悪化していた。そこで、店舗の統廃合、新しい業態の創造など抜本的な事業再構築をする必要があるが、短期的に利益を圧迫するなど5万人を超える株主の要望に応えることができないおそれがあるためにMBOを実施するというのである。この説明でも、いまいちよくわからない。要するに言い換えると、今後リストラをして利益が減ってしまい、株価も下がり、経営者の責任問題になりかねないので、一度非上場化して出直します、と、そういうことである。この会社の利益は今後も下がりますよ、株価も下がりますよ、それでは皆さんも納得しないでしょうから一度非上場化しますよ、と直接言うわけにはいかないので、なんとなく、あいまいな表現をとっているのだろう。

非上場化するためには、一度株式市場で流通している株式を買い取る必要がある。みなさんが持っている上場株が突然非上場となれば、証券会社を通じて売ることができなくなり、大きな損害を受ける。倒産による上場廃止であれば、それは突然起こることであるが、すかいらーくのように倒産するわけでもない(2005年12月期で66億円の利益)会社が、明日から上場廃止では困る。暴動がおきかねない。そこで、経営者たちが株式市場の株を買い取るというのがMBOの仕組みである。実際には、2割程度のプレミアムをつけて買い取る。それだったら、普通の株主は喜んで売却する。私が株主であっても文句なく売却する。自分が投資している会社の経営者が2割のプレミアムでその株を売ってくださいというのである。反対する理由はないだろう。こうして、経営者は今後は経営者としてだけでなく株主の立場で会社を経営していくのである。

さて、ここで一度振り返って考えてみて欲しい。なぜ経営者はMBO(非上場化)の選択肢を選んだのか。それは、今後大きなリストラが予想されるからであるという説明だった。つまり利益が減るということは経営者自身が一番良く知っているはずである。利益が減る会社の株をあなたは買うだろうか。普通の投資家であれば、利益が増えると予想する会社の株を買うはずである。では、MBOを実施する経営者はどのような動機で会社の買収に踏み切るのか。ここまでの説明では、全く理解できない。少なくとも経済合理性は感じられない。経済合理性が見えない取引をわざわざ実施するという背景には必ず裏の理由がある。それを考えてみよう。

ここでMBOの買収者が誰かということを見てみたい。MBOの日本語訳は経営陣による買収となっているが、現実問題として経営陣(社長や取締役)だけで、すかいらーくのような上場会社(MBO前)の株式を買い占められるほど財力はない。とくにすかいらーくのMBOは日本最大といわれていて、買収規模は2700億円を超える。仮に創業者一族がいくら金持ちだとしても、まさかそれだけのCashを保有しているということは考えにくい。では、だれが資金を出しているのか。

そこから、今回のニュースの本質が見えてくる。

(疑問1)
すかいらーくの真の買収者は誰か?

(ニュースはこう読め)
解説の最初にMBOを直訳して経営者による会社買収と理解すると、その本質は理解できないと書いた。
MBOの本質は、経営者も含む投資家グループによる買収とでも言えばよいだろうか。もっと直接言えば、投資ファンドが経営者と組んで買収すること、である。そして真の買収者は資金を最も出している人、ということになる。
このMBOに関して言えば、野村プリンシパル・ファイナンスとCVCキャピタルパートナーズ(英)が約1600億円を出資して特別目的会社(SNCインベストメント)を設立し、みずほ銀行が1,200億円融資してすかいらーく株式を公開買付した。
経営者も一部資金を拠出しているはずであるが、これは、投資ファンドによる買収である。真の買収者は野村プリンシパル・ファイナンスとCVCキャピタルパートナーズの二つの投資ファンドである。しかし、経営者も参加しているので敵対的買収ではない、きわめて友好的な買収劇といえる。友好的ではあるが、今のすかいらーくのオーナー(すなわちそれが買収者となる)は、野村プリンシパル・ファイナンスとCVCキャピタルパートナーズの2社であるということを忘れてはいけない。
これがMBOの本質である。

(疑問2)
MBOの真の目的は何か?

(ニュースはこう読め)
投資ファンドの目的はひとつしかない。非常にシンプルである。投資によってリターンをあげること。その一点に目的は集約される。そこを読み違えてはいけない。もちろんリターンをあげるためにさまざまな努力をするが、投資ファンドによってその手法は違っても、目的はひとつである。MBOというのは友好的な買収であると書いた。ファンドによっては敵対的な買収によってリターンを目指すものもあるが、少なくともこの2社は友好的な買収者である。
友好的であるということは、現在の経営者と対立しないことを意味する。そうでなければ、MBOではなく、敵対的なTOBになってしまう。敵対的TOBと友好的MBOの違いは経営者が賛成しているかしていないか、経営者も(一部)出資するか否か、それだけである。ファンドとしては手法が違っても目的はひとつというのは、そういうことだ。
新聞記事を表面的に読んでいるだけでは、その点がなかなか理解しにくい。
さて、では投資ファンドはどうやってリターンをあげることができるのか。これも非常にシンプルである。株式を安く買って高く売る。MBOではプレミアムをつけなければ買収できないのである意味では安いとは言いがたい面もある。しかしながら、それを補うだけの高値で売れればリターンが得られるという仕組みである。
どうやって高値で売るかというと、これも2つしか方法はない。ひとつは誰かにまとめて転売すること、もうひとつは株式の再上場である。そのためにはリストラによって一時的に損失が出ても、長期的に利益が出る体質に変えていかなければならない。そのようにして利益を増やし、高い株価で転売をするのである。
すかいらーくの規模であれば、これをまとめて買うという買手も少ないと思われ、基本は再上場を年頭においていたと思われる。MBO時点でも経営陣は再上場について否定しなかった。
さて、利益至上主義の投資ファンドにとって、再上場時期が遅れる、あるいは再上場できないという事態に陥れば大損害である。仮に、リターンが得られたとしても小さくなる。新聞報道によると、MBO後の直近2年間は赤字である。これはある程度予想されたことだと思われるが(MBO時でそういっているのだから)、それにしても赤字額が拡大したことは想定外であったようだ。また、赤字も一時的なものではなく、今後の事業環境はさらに厳しいものと予想されている。このような背景の下、現在の社長で経営を続けることは難しいと投資ファンドは判断し、新社長就任となった。
MBOという名前に惑わされてはいけない。

2008年7月31日 (木)

多角化の推進か、本業回帰か? なぜソニーは音楽ソフト事業に多額の投資をするのか?

(ニュースの概要)
 ソニーと独メディア大手ベルテルスマンは折半出資している世界二位の音楽ソフト会社、米ソニー・BMGミュージックエンタテインメントをソニーの完全子会社にする方向で交渉に入った。ベルテルスマンは保有する五〇%の株式のすべてを売却する方針をソニー側に打診しており、八月にも基本合意を目指す。株式の買収額は一千億円超とみられる。ソニーは完全子会社化で経営効率を高め、世界の音楽ソフト市場で首位の米ユニバーサル・ミュージック・グループを追う。
(2008/07/29, 日本経済新聞 夕刊, 1ページ)

(解説)
本記事は、まだ何も確定していない段階での報道である。つまり8月中の基本合意を目指し交渉に入ることが決まっただけで、何も正式に決定していない。しかしながら、関連報道を読む限り、ベルテルスマンは株式の売却を決めており、ソニーは買い取る方針を決めているようだ。単純な株式の売買なので、新会社への投資でもなく、既存の投資先の株式を買い増すだけであれば、一番の交渉は価格であり、交渉にそれほど時間がかからないだろう。

(疑問1)
ベルテルスマンが株式の売却を決めた背景は?

(ニュースはこう読め)
M&Aの交渉の現場に立ち会っていると、経営者は既存の事業を手放すことに対して抵抗感をもつものだと感じることが多々ある。もちろんそれが本業であれば当然である。自分が心血を注いで大きくしようとしているビジネスを他人に売ろうとは、なかなか考えないであろう。それどころか、赤字でなければ(あるいは赤字であっても)、本業とは違うビジネスでさえ手放そうとはしない。それはおそらく、自分の王国、領土を拡大することに快感を持ち、縮小することは良しとしない経営者の心理(本能)が働くものと想像する。
効率が全てとは言わないが、効率を重視するのであれば、経営者が本腰をいれて取り組むつもりがない(つまり、金も時間も使うつもりがない)本業以外のビジネスが低成長であれば、それを手放し、そのあまった資金で本業に金と時間を集中したほうが、本業も成長が期待できるし、また手放したビジネスも新しい株主の下で今まで以上の成長が期待できる。
そうした視点でベルテルスマンの判断をみてみると、出版、放送など主力事業に経営資源を集中させるために音楽ソフト事業を売却する方針を固めたわけであり、きわめて合理的な判断だと感じる。
例えば、出版などの主力事業の成長率が5%、音楽ソフト事業の成長率が2%であれば、音楽ソフト事業を売却した資金を主力事業に投資することによって、3%の追加成長を得られる。
日本企業の場合には、音楽ソフト事業が赤字でなければなんとなく継続保有するという判断を下す場合が多いのではなかろうか?
今後は株主も経営者に対し効率性を求めてくるだろう。そうなったときには、今回のケースのように低成長の非主力事業を手放し、事業の選択と集中が進むことが期待できる。このような隠れた非効率性は目にみえにくい。それが日本の成長性を抑えている一因のような気がする。ベルテルスマンのような経営判断が増えれば、日本の経済成長性ももっと上がるとおもうが、皆さんはどう感じるだろうか?

(疑問2)ソニーはなぜ音楽ソフト事業に多額の追加投資をするのか?

(ニュースはこう読め)
さて、反対にソニーの立場からこの取引を見てみよう。音楽事業はソニーの主力事業か?答えはノーである。ソニーの有価証券報告書を見ても音楽事業はその他に分類されている。ゲーム、金融などの事業も大きいが主力事業はエレクトロニクスである。ではなぜ音楽ソフト事業に投資をするのか?
ソフトとハードの融合という言葉は使い古された感があるが、今の時代において音楽ソフトと音楽再生プレーヤーの両方のビジネスを押さえることにどれだけの効果があるのかは疑問がぬぐえない。これからはアップルのi-podのビジネスモデルが主流であり、CD販売の成長性は期待できない(それもベルテルスマンが売却を決めた理由だ)。
ブルーレイが次世代DVD企画争いで買った理由はアメリカの映画会社を押さえたからであり、ソフト産業を持つ理由は多少あるだろう。それにしても1000億円を追加する意味があるかどうかは、疑問が残る。
むしろ、この投資の意味は合弁会社特有の非効率性の解消である。これには大きな意味がある。本件に限らず50%ずつを保有する合弁会社は、その経営がうまくいかないことも多い。会社が一枚岩にならず、足の引っ張り合いが発生するために意思決定や行動が遅くなるのである。100%子会社であればその様な問題は解消されるはずである。
もうひとつの理由としては、ストリンガー会長がソフト企業出身者ということもあり、それも影響している可能性はある。つまり会長のこだわりが強く反映されているということである。先ほどの例で考えると、音楽ソフト事業の成長率が2%であり、ソニーのエレクトロニクス事業の成長率が5%であれば、(それが本業であればともかく)あえて音楽ソフト事業に1000億円の資金を投入する必要はない。経済合理性にかなった判断であるためには、合弁企業のため内部での足の引っ張り合いが会社の成長率(または利益率)をおしさげていて、100%子会社化することにより効率性と利益率が上昇するということでなければならない。

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